著者プロフィール                

       
苦慮した夏休みの課題 〜 私の良き時代・昭和!(その11)

森田 力

昭和31年 福岡県大牟田市生まれで大阪育ち。
平成29年 61歳で水産団体事務長を退職。
平成5年 産経新聞、私の正論(テーマ 皇太子殿下ご成婚に思う)で入選
平成22年 魚食普及功績者賞受賞(大日本水産会)
趣 味  読書、音楽鑑賞、ピアノ演奏、食文化探究、歴史・文化探究

苦慮した夏休みの課題 〜 私の良き時代・昭和!(その11)

苦慮した夏休みの課題

話を戻そう。夏休みはとてもうれしいが例年課題が多く、消化しきれない。
二学期になると、友達等は必ずといっていいほど家族で旅行に行ったなどの自慢話が蔓延するが、当家では皆無であった。夏休みに家族で旅行に行くことなどなかった。たった一度日帰りで泉南辺りの海水浴場にいったことぐらいしか記憶にない。だから休暇を家族で味わうということが今もできないでいる。今も夫婦や家族で旅行に行ったことなど記憶にない。

夏休みの課題で特に絵画と工作はいつも苦慮した。小学三年の夏休み、最後まで絵画ができなくて困っていると、母が一瞬にして二見ヶ浦の絵を描いてくれた。「これを持っていきなさい」といってくれたが、とても後ろめたかった。
誰が見ても子供の絵ではない。私が描いたなんてことはとてもいえるものではなかった。
しかし、結局新学期の初日に提出してしまった。その後、三ヶ月ぐらいたったころ、担任の先生に呼ばれた。私もこの絵のことは完全に忘れていた。先生から教育委員会主催の絵画コンクールで優秀賞をとったとの報告を受けた。「おめでとう」「よかったな」と声をかけられるが、自分が描いた絵でもないので非常に複雑な心境で大変恥ずかしい気持ちであった。人としてこんなに恥ずかしいことはないと思った。それ以来学校の課題については何が何でも自分自身の力で精一杯頑張るようにした。
工作の課題についても父が木でキリンを作ってくれたり、汽車を作ってくれたりした。
途中までは父が中心で作り、仕上げは私が受け持った。考えてみると夏休みの四〇日間は『夏休みの友』、工作、絵画、読書感想文など課題がてんこ盛りで、夏休みといいながら、夏休みの宿題に追われているといったほうがいい。休みにしないで通常授業を行えばいいではないか、そのほうが友達とも遊べるのでいいと思うのは私だけだろうか。

母は結構器用で料理は勿論、和裁・洋裁を始め、絵を描くことや、色紙ではなくちり紙で花を折ることなどいろいろな趣味をもっていた。
因みに母の実弟は孤高の画家となっていたが平成三〇年に他界した。
また母は、貧しいながらも金がないなどとはいわなかった。苦しいときでも色々と工夫をしコツコツと貯蓄をしていたようだ。大阪に来たときも三〇~四〇万円の現金を持っていたようだ。
ここまであまり兄の話は出ていないが兄は二学年年上で、川の土手でキャッチボールやトンボの採集をした。土手でキャッチボールをするのはいいのだが、ボールが逸れて川に落ちるとそれこそ大変だった。どぶとごみをかき分けながら棹と網をもって掬うのだが、気持ちが悪くて直ぐ共同水道で洗った。
汗をかいて、家に戻ると当時は「わたなべのジュースの素です、もう一杯」の宣伝でよく売れていた粉ジュースをよく飲んだものだった。それに思い出すのは紙芝居のオジサンが週に三日は決まって学校の通用門の横に来ていたことだ。お題は「古事記」や「万葉集」の連載物語で、面白いところになると「つづく」ということになり、紙芝居のオジサンの術中に嵌り、また見に来ることになってしまう。ここで買う型とりのおかし、水あめ、わらびもち、アイスクリンなど子供に大人気であった。型取りお菓子は板状のガムでカット線が入っており、その線に沿って切外していくのであるが、これがなかなか細かくて難しいのである。集中して挑戦するが動物や鳥の指や足、ウサギの耳など細かいところでは微妙な力加減が必要で、完璧に切り離すことができない。おまけがもらえるということで、それこそ誰もしゃべらず必死になって挑戦したのである。

兄はといえば早くからそろばんを習い,趣味は切手収集だった。当時から「見返り美人」など珍しい切手を集めていた。背は高く学校でも存在感があった。上級生に兄がいるということは私にとっても心強いことであった。

私の良き時代・昭和! 【全31回】 公開日
(その1)はじめに── 特別連載『私の良き時代・昭和!』 2019年6月28日
(その2)人生の始まり──~不死身の幼児期~大阪の襤褸(ぼろ)長屋へ 2019年7月17日
(その3)死への恐怖 2019年8月2日
(その4)長屋の生活 2019年9月6日
(その5)私の両親 2019年10月4日
(その6)昭和三〇年代・幼稚園時代 2019年11月1日
(その7)小学校時代 2019年12月6日
(その8)兄との思い出 2020年1月10日
(その9)小学校高学年 2020年2月7日
(その10)東京オリンピックと高校野球 2020年3月6日
(その11)苦慮した夏休みの課題 2020年4月3日
(その12)六年生への憧れと児童会 2020年5月1日
(その13)親戚との新年会と従兄弟の死 2020年5月29日
(その14)少年時代の淡い憧れ 2020年6月30日
(その15)父が父兄参観に出席 2020年7月31日
(その16)スポーツ大会と学芸会 2020年8月31日
(その17)現地を訪れ思い出に浸る 2020年9月30日
(その18)父の会社が倒産、広島県福山市へ 2020年10月30日
(その19)父の愛情と兄の友達 2020年11月30日
(その20)名古屋の中学校へ転校 2020年12月28日
(その21)大阪へ引っ越し 2021年1月29日
(その22)新しい中学での学校生活 2021年2月26日
(その23)流行った「ばび語会話」 2021年3月31日
(その24)万国博覧会 2021年4月30日
(その25)新校舎での生活 2021年5月28日
(その26)日本列島改造論と高校進学 2021年6月30日
(その27)高校生活、体育祭、体育の補講等 2021年7月30日
(その28)社会見学や文化祭など 2021年8月31日
(その29)昭和四〇年代の世相 2021年9月30日
(その30)日本の文化について 2021年10月29日
(その31)おわりに 2021年11月30日