Presented by 幻冬舎ルネッサンス

特別連載インタビュー

大人になってから気づいた、作家から受けた影響“運命”だと思い、受け入れて生きていく

──書くものはどうやって見つけているんですか?

 羽田:1回小説を出したら、ものの見方が小説家になる。日常のとらえ方とか、ふと覚えた違和感とかを、原稿として残しておくという、そのための神経回路が研ぎ澄まされていく。書きたいことを生活しているうちに思いついてメモしておいて……と、作品を出せば出すほどに、そのサイクルが研ぎ澄まされて今に至るという感じです。ネタ帳は大学生のころまでは手書きでした。ここ10年ぐらいはワードのファイルとかに打ち込んで、定期的に更新しています。これは使わないなっていうのは削除していきます。全部でどれくらいあるか数えたりはしませんが、経験上、どんなにネタ帳が膨らんでも、小説になるものは、そのなかの一つか二つぐらいしかないですね。

──最新作の『ポルシェ太郎』は、起業してスポーツカーを買った男が不穏な出来事に巻き込まれていく話ですが、高級外車に興味があったんですか?

 羽田:街でかっこいいなあと思う車を見て、どんな人が乗ってるのかなって思ったら、大抵、老いた男性が一人で不機嫌そうな顔つきで乗ってるんですよ。全然楽しそうじゃない(笑)。そのトキメキのなさ、空回り感って、現実ですよね。乗ってる人には「ポルシェに乗ってるかっこいい自分」っていう世界観があると思うんです。でも誰からも見てもらえない。認識する他者がいない孤独さって、性別とか年齢とかに関係なくあると思うんですよ。インスタグラムなんかその最たるもので、自分の世界観を共有してもらいたくて投稿しても、誰も他人の投稿なんかろくに見てない。自分の見てほしいものを見てもらえない。みんな他者にわかってもらえずに、孤独のなかで生きている。そういうことをテーマにした小説ですね。

──羽田作品は、等身大の感覚で社会に向ける視点が魅力の一つだと思いますが、例えば登場人物の言葉や考え方はご自身のものと一致しますか?

 羽田:もちろん、作品に自分の見方が反映されるのは避けられない。コントロールしたつもりでいても、できていないこともあると思いますし。そこは自分ではわからないですね。一番大事にしているのは、作品全体の整合性です。最適なかたちに仕上げること。いつも、作品の最も美しいかたちはどういうものかを考えてます。プロットは作りません。書きたいシーンのリストと、設定だけ考える。書きたいシーンとかモチーフとかが浮かんだら、それを仕上げるにはどうするか、登場人物の年齢、性別、社会的立場、住んでる場所とか、家族関係とかを決めて書いていきます。

──実体験を書いているように見えて、実は取材してると、以前話していましたよね

 羽田:そうですね。取材といっても、関連する本を読むのが中心ですけれど。『スクラップ・アンド・ビルド』のときは介護の現場で働く知人がいたので、話を聞くというか、愚痴を聞いたりもしましたが、いきなり誰かに会いに行くような取材はあまりやりません。先に話を聞くと口止めされたりもするからです。資料を基にこちらで大まかなフィクションを作っておけば、口止めされてもそれに従わなくていいわけですし。大量の書籍を仕入れますが、作品には資料で知ったことの数割しか使いません。自分の視野の狭さを自覚するために資料を読んでいると言えばいいでしょうか。あるテーマについて、いろんな事例や考え方があることを踏まえた上で、じゃあ自分は何を書こうかって考える。結果、資料がほとんど反映されない場合もあるんですが、どこかで何かしら影響されている。そんな感じです。

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