Presented by 幻冬舎ルネッサンス

特別連載インタビュー

読者の”心に”引っかかるエンターテインメントを求めて

──プロットを決めずに書くそうですね。

 七尾:僕は書き始めないと物語が動かないんです。書いているうちにキャラクターがどんどん立ち上がってきて、予定とは全然違う方向に転がっていったり、犯人なども決めずに書いているうちに、こいつが犯人だったら面白いな、とか、こいつを犯人に見せかけて別の人だったら意外だな、といったように思いついていくんです。動機に関しても、最初は、恨みが犯行のきっかけになった、と考えていたのに、途中で、この人は誰かを守ろうとしていたんだ、としたほうが物語に深みが出るかな、と思考を変えていくこともあります。そうやって物語が迷走しつつ、最後は物語がキレイに閉じる……。僕はこの迷走の部分が自分の作品の特徴ではないかと思っているんです。過去の作品を読み返してみると、その部分が興味深かったり、読者からも受けがよかったりすることが多いんですよ。なので最近は、迷走したら迷走したままに任せて書くようになりました。

──ミステリーは時系列や人物像がきちんと整理されていないといけないと思いますが、その点は迷走しながらどのように工夫されていらっしゃるんですか。

 七尾:物語の展開に関しては、いくら迷走しながら書いているとはいっても、ある程度計算はしているんですよ。人物についても、たとえばAだと思った犯人が実はBでした、というのはよくある話ですが、これを印象深くさせるにはどうしたらいいか。たとえばAが20代男性、とします。でも実際の犯人のBも20代の男性でした、こんな内容では気が抜けてしまいます。でも、Aが20代の男性でBが10歳の女の子でした、となるとどうでしょう。そうやって考えていくんですね。

──発想を組み立てながら書いているなかで、どのように終わりまで持っていくのでしょうか。

 七尾:作家にとって大変なのは、最後まで書き上げる、ということなんです。特に長編。アマチュアとプロの違いで大きいのは、アマチュアは最後まで書き切れない人が多いということです。だけどプロはそういうわけにいかない。最後まで絶対に、しかもキレよく書き切らなければいけない。書き切る、書き切れないの違いはかなり大きくて、そこは自分はプロである、プロになる、小説でやっていく、という強い意志の表れだと思います。

──七尾さんの作品で特徴的だな、と思うのが、キャラクターや会話のおもしろさなんですが、それはどのように作っていかれるんですか。

 七尾:僕は基本的に自分が面白いと思うことを書いているので、他人がどう読んでいるのかは、正直わかってないです。ただ、普遍的に面白いものというのはあると思います。誰が読んでも、こういうシチュエーションでこういうことを言えば面白い。いわゆる基礎的なエンターテインメントですよね。それ以外の、自分のオリジナルな笑いが、どの程度読者の皆さんに受けているのか。読書メーターなんかを見ると、「寒い」とも「味がある」とも書かれているので、微妙なギャグというのは賛否両論なのかもしれません。ただ、定番のテンプレートみたいな面白さだけを組み合わせていくだけではオリジナリティがないですよね。なので、そこは賛否両論でも、独創性も作家には大切な要素ですので、果敢に挑戦していくべきだと思っています。

──七尾さんにとっての「エンターテインメント」とはなんなのでしょう。

 七尾:エンターテインメントは一種学問のようなもので、言い換えると心理学、読者心理学じゃないかと思うんです。人間なんてみんな同じ成分でできていますから、個性や好みの違いがあっても、心に引っかかる部分は似ているんですよ。たとえばヒットしていて評価の高い映画は、やはり皆面白いと言いますし、つまらないものは観る人が少ない。つまり心に引っかかる部分はだいたい一致していて、それを把握できているかどうかが大事なんだと思います。

特別連載インタビュー