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特別連載インタビュー

特別インタビュー 五十嵐貴久 自分にとって書くこと、表現することとは

ホラー小説『リカ』でホラーサスペンス大賞を受賞してデビュー以来、精力的に作品を発表し続けている五十嵐貴久さん。その作品ジャンルは、ミステリーや警察小説、青春小説、時代小説など多岐にわたる。「小説は面白くなければいけない」と言い切るが、では面白い小説を書くために、作家として必要なことはなんなのだろう——?

マンガ喫茶にこもって、ただずっと書いていた

──そもそも五十嵐さんはどうして小説を書き始めたのですか?

 五十嵐:僕は出版社の扶桑社に勤めていたんです。編集業務が長かった。ところが、30歳を越えたあたりで仕事に飽きまして。日々の習慣で仕事をやるようになっている自分に気づいてしまった。このまま定年まで30年近くこの仕事をやるのか?と。もともと僕が所属していた編集部では、編集者もライターとして文章を書くという方針があったんです。コスト削減の意味もあったんでしょうけれど、だから文章を書くことには慣れていたし、いい文章を書いているという自負もありました。そうやってずっと書いていると、たとえるならば「小さいうんこ」が常に出ている状態。「大きいうんこ」をするためには(笑)、つまり、書くことによって満足感を得るためには、溜めなくてはいけないと分かったんです。それで自ら願い出て、勤務時間が9時から5時までの、本の販売部署に異動しました。その仕事のかたわらで「小説を書こう」と。35歳くらいでした。
今は小説を書いて世に出るということは、ものすごくハードルが下がっていると思います。誰でも小説は書けるし、ちょっとの幸運で本も出せる。ただ一方で、家庭も仕事もうまくいっている、夜は仲間と飲みに行く……なんて、日常を楽しく過ごしている人は作家を目指すべきではありません。プライベートが充実していると小説なんて書けないものです。何かを犠牲にしないと作家にはなれないと思います。

──会社の仕事のかたわら、小説を書き始めた、と。

 五十嵐:小説を書くと決めたので、会社員の仕事は最小限にしようと考えていました。異動先では営業マンとして書店回りをしていましたが、1日に6軒の書店を訪ねるノルマがありました。朝9時に出社してすぐに外出。開店直後の書店を急ぎ足で回って、午前11時には業務終了(笑)。その後はマンガ喫茶にこもって、とにかくずっと書いていましたね。

──たったの2時間で終わり!?(笑) ある意味、仕事と小説の執筆をうまく両立させていたんですね。

 五十嵐:会社に提出する日報にはそれらしいことが書いてある。決して嘘ではないんです。書店員とも「おはよう」「こんにちは」としっかり会話していましたから(笑)。もちろん販売部員としてしっかりやらないといけない仕事もありました。書店チェーンのトップと会って話すとか、打合せしたり、販売プランを提案したり。ここぞという仕事はきちんとやっていましたよ。

──マンガ喫茶から生まれた作品は?

 五十嵐:最初に書いたのが『TVJ』というテレビ業界を舞台にした作品でした(※編集部注:2001年に第18回サントリーミステリー大賞で優秀作品賞を受賞)。当時、仕事でフジテレビによく出入りしていたことが大きかったですね。フジテレビはツインタワーが特殊な造りで結ばれている。小説では、このテレビ局の構造をうまく活かそうと考えて書きました。話がそれますが、小説を書きたい人の多くが自分の知らない世界を書きたがる。東京に住んでいる人が北海道のことを書きたがる。なぜそんな非効率的なことをするのかと不思議です。小説の題材は、自分の知っていることを書けばいいんです。身近なことを小説に取り入れると良いと思います。

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