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第六回 Dreamers 〜 無邪気な猿は太陽を創る(その6)

竜崎エル

出身地:山と田んぼの町

My favorite
小説:アルジャーノンに花束を
漫画:金色のガッシュ!!
映画:ローマの休日
音楽:Don’t stop me now

どうか駄文を読んでみて下さい。

第六回 Dreamers 〜 無邪気な猿は太陽を創る(その6)

 その日、地上に魔王が降臨した。神の手違いでそうなったが、神はこれを面白がった。人間には試練としてこの出来事を伝え、人間界がどう変化するのかを神は見守ることにした。神は大多数の人間が恐怖に慄き、ほんの一握りの人間が勇敢に立ち向かうと想像したが、人間たちの反応は想像のナナメ上をいった。

「キタ!キタ!キタ!キター!」

「おっしゃ―!」

「英雄になるチャンス!」

「俺が英雄になるぞ!」

「いいや、僕がなる!」

「私がなる!」

「いや、わしじゃ!」

「おおおおおおおお!」

「魔王ぶっ殺して英雄になる!」

神のお告げを受けると、老若男女ほぼ全ての人たちが自分の燃え上がる心を抑えきれず走り始めた。

 魔王降臨から五日後、早くも一人の勇者が魔王の城へと辿り着いた。

「魔王様!門の前にもう勇者が来ました!」

「え!何で?」

「知りませんよ!」

「はー?ふざけんなよ!まだ何も悪いことしてないだろ!」

「ピーンポーン!」

勇者が門のインターホンを押した。

「やばい!やばい!どうしよう!」

「とりあえず、出てください!後は何とか追い返しましょう!」

魔王陣営はバタバタと慌てふためいていた。

「どちら様ですか?」

「あ、どうも!勇者です!魔王を斃しに来ました!門を開けてください!」

門の前には必死に走って来たであろう青年が堂々と待ち構えている。魔王は頭をフル回転させ言い訳を考えた。

「いやいや、ちょっと困るな!君!こんなに早く来てもらっちゃ!」

「え!ダメなんですか?」

「そうだよ!まだこっちの準備ができてないんだから!」

「それは知りませんよ!」

「知りませんじゃないよ!お前が早く来過ぎなのが悪いんだろ!もっとレベル上げてからきてもらわないと!」

「今のまま挑戦しちゃダメですか?」

「ダメに決まってるだろ!君何の努力もしてないじゃない!それに、魔王と戦う前までに仲間との冒険の日々、師匠との別れ、恋の芽生えを経験しないと。それが醍醐味でしょ。」

「…」

「じゃ、悪いけど出直し決定です!」

「そうですか…わかりました。」

勇者は一人戻っていった。

「セーフ!いやー何とかなった!」

「良かったですね!魔王様!」

 数日後、再び門の前に勇者が現れた。

「魔王様!また来ました!」

「えー、何で来ちゃうのよ…」

「ピーンポーン!」

「あークソ!」

インターホンを見た魔王は衝撃を受けた。門の前に十数人の勇者一行が待ちわびていた。

「どちら様ですか?」

「こんにちは!勇者です!魔王を斃しに来ました!」

「君たち全員勇者?」

「そうです!この中から魔王を斃した奴が英雄になるってことで、皆で来ました!門を開けてください!」

「いや、ダメだね!」

「なぜですか?」

「魔王一人に対して勇者数十人はおかしいでしょ!そんなのリンチとか、イジメじゃん!正義のヒーローがすることじゃないよ!仲間との冒険ってそういう事じゃないからね。」

「はー。」

「そもそも、勇者ってのは一人だから!その資格ちゃんと持ってる?」

「資格とかあるんですか?」

「あるよ!伝説の剣を抜くとか長老に予言されるとか。そんなイベントあった?」

「なかったです…」

「あー。じゃあ、ダメだ。お引き取り下さい!」

「何だよ!」

「そんなのあるの?」

「めんどくせー…」

勇者一行は大人しく帰っていった。

「危なかった…あんな大人数勝ち目無かった…」

「さすがです!魔王様!」

 それから毎日のように門の前に勇者を名乗る者たちが現れた。

「ピーンポーン!」

門の前には刃こぼれした剣のみを装備した男が立っていた。

「君さ、そんな装備で魔王に勝てると思うか?ボロボロの剣のみ。楯も鎧も装備せず、回復薬なんかも持ち合わせていない。どうなってるんだよ?」

「道中モンスターを斃して、その報酬で色々装備しようと思ったんですが、全然モンスターに遭遇しなくて…」

「そんなの知らないよ…」

現状、魔王は早すぎる勇者の訪問の対処で何一つ仕事ができていなかった。モンスターの召喚と配置、町や村を襲い、人間を喰らうなど、人間に未だ何一つ害を加えていなかった。

「お前は予想が甘すぎる!もう他の人が斃したんだろう!金がないなら普通に働いて、貯金して、装備を整えてから来なさい!」

「わかりました。」

「ピーンポーン!」

門の前で華奢な女の子が一人待っていた。

「君、ここまでの道のりで他の勇者に会った?」

「はい。会いました。」

「あれね、全員ここから逃げた奴らなのよ!」

「へー!」

「君はその人たちと比べて自分が強いと思う?」

「いや…自信はないですね…」

「そうでしょ。じゃ、やめときなさい。殺されるの嫌でしょ?」

「はい。」

「町に帰って、普通に恋愛して結婚して、楽しく人生送る方が良いと思うよ!ここでリスクを負って勇者になるよりは。」

「…そうします。」

「ピーンポーン!」

門の前で腰の曲がったヨボヨボの老いぼれが杖をつき立っている。

「あんた、ここまでよく来たな!」

「ああ。」

「厳しいことを言うが、あんたじゃ無理だ!帰りな!」

「嫌じゃ!せっかくここまで来たのに…」

「剣もふれない、走れない、飛べない。そんな年寄りに何ができる?何もできんだろ!年相応の生き方をしろよ!あんたじゃ無理だ!あんたみたいな人間を殺したいわけではない!ゆっくり余生を楽しんでろよ!」

「…」

老いぼれは悲しそうにその場を立ち去った。

「ピーンポーン!」

門の前にフランスパンをもった体つきのいい男がいる。

「なんだ?お前は?」

「勇者だ!魔王を斃しに来た!」

「じゃあ、なぜパンを持っている?」

「俺がパン屋だからだ!これは食事用に作ってきた!」

「武器はどうした?」

「ない。武器はこの腕っぷしだけだ!」

「お前、パンはもう作れなくなるが良いんだな?今まで積み上げてきたものをすべて失うことになるぞ!いいんだな?」

「それは困るな…」

「武器も持たずに素手だけで戦うんだ!当然お前は死ぬ!そうなればお前はパンを作れないし、お前のパンを食べて幸せそうにする客の顔も見えない!今までの人生投げ打てないんだったら帰りな!無駄に命を捨てる事は無い!」

「やっぱり、パン屋続けます。」

「ピーンポーン!」

門の前にお腹を膨らませた妊婦がやって来た。

「勇者になりたい気持ちはわかるが、今はやめときなさい!生まれてくる子供と帰りを待つ旦那を幸せにしてやるのが今やるべきことだと思うが?」

「でも…」

「じゃあ、子供も死んでいいんだな?嫁と子供を両方失った旦那は自殺するかもしれんぞ!良いのか?」

「それは嫌です!」

「なら、帰れ!」

「はい。」

「ピーンポーン!」

高貴そうな青年が自信満々に門の前まで訪ねてきた。

「ほほう!君は今までの勇者とは少し違うな!」

青年はピカピカに輝く鎧を身に着け、自分の背丈ほどある大剣を背負っていた。さらに、有能そうな仲間も数人引き連れている。これに、魔王は危機感を覚えた。インターホンの前でガクガクと震えていたが、何とか声だけは冷静を装った。

「いいか、魔王!今までの勇者と比べてもらっては困るぞ!私には財があるのだ。存分に金を使い、一級の装備を整え、部下を雇ってきた。お前が好き勝手出来るのも今日までだ!」

「フハハハハハ!面白い!」

魔王は過去最高に追い詰められていた。城内に入れてしまえば間違いなく殺される。魔王は笑って誤魔化したが、死への恐怖から頭の中で起死回生のアイディアを考え続けていた。

「さあ、門を開けよ!」

魔王は一か八かの賭けに出る。

「いいだろう!しかし、その前に言わせてもらうぞ。魔王の城は罠だらけだ。幾ら金で武器を揃えようが、仲間を雇おうが関係ない。一人ずつ分断して、嬲り殺してやる!いいか!お坊ちゃん!誰もあんたを守りはしないぜ!結局は一人で戦うしかないんだ!金なんて何の役にも立たない!それだけは覚えておくんだな!」

「…」

「さあ、入ってこい!」

「ゴゴゴゴゴゴ!」

門が開き始めた。ひんやりとした空気が中から溢れ出てくる。その風に勇者は身震いした。門の先は真っ暗で何も見えない。勇者は一歩踏み入れる前に様々な事を想像した。皆がバラバラになるようなトラップが中にあるのでは?落とし穴や最初から通路は行き止まりになっていて、迫りくる壁に押しつぶされたり、水攻めに遭ったりするのでは?そもそも不意打ちで簡単に殺されるのでは?勇者の呼吸が段々荒くなる。それは彼が何も積み上げてはいないからであろう。その頃、城内では魔王が必死に願っていた。

「お願い!入ってこないで!何もトラップとか用意してないの…そんな時間なかったの…頼む!ビビッて帰ってくれ!」

魔王は必死の形相でモニターを見ていた。

「出直そう!」

「え!入らないんですか!」

「ああ。良く考えたら、内部がどうなっているのか調査不足だ。一度戻って、奴隷や下級兵に調査させてから、攻めよう!私たちは失敗できない!」

「なるほど!わかりました。」

勇者たちはそのまま戻っていった。

「ヤッタ―!何とかなった!ビビらせやがって!このビビりどもが!」

城内では魔王が乱痴気騒ぎではしゃいでいた。

「あ!危ない。すぐに門を閉めとかないと!」

「ゴゴゴゴゴゴ!」

魔王はなんとか勇者を追い返すことに成功していたが、そればかりに時間を使っているせいで魔王は一向に魔王らしい力を手に入れられていなかった。

「ピーンポーン!」

門の前で幼い少年が一人立っている。

「誰だ?」

「勇者だ!魔王を斃しに来た!」

少年はぶかぶかな鎧を身に纏い、自分の背よりも長い剣を地面に引き摺っていた。どうしてこの子の親は冒険を許したのだろうかと、魔王は疑問に思った。

「お前は若すぎる!無理だ!死にたくなければ帰れ!」

「嫌だ!僕は英雄になるんだ!」

「なれないよ!剣だって振れんだろ?」

「振れる!」

少年はふらつきながら全身で剣を振り下ろした。

「ほら、危なっかしい!やめときなさい!」

「いいや!これで斃す!」

「じゃあ、死んでも良いのか?すごい痛いぞ?苦しいぞ?辛いぞ?」

「大丈夫!それを感じるのはお前だ!」

「何だとクソガキ!」

魔王は声を荒げ威嚇したが、少年は怯まなかった。

「早く開けてよ!」

「いや、ダメだ!仲間との冒険の日々、師匠との別れ、恋の芽生えをお前は経験してないだろ?」

「別にいいじゃん!」

「良くない!これが無いと盛り上がりに欠けるでしょうが!」

「知らないよ!」

少年が門を登り始めた。

「ちょっと待って!まだ大事な話があるのよ!お前は勇者の資格を持ってないだろ!」

「なにそれ?」

「伝説の剣を抜くとか長老に予言されるとか。そんなことあったか?」

「ない。」

「じゃあ、お前は勇者じゃないからダメだ!」

「もういいや!」

やっと少年が諦めたと思ったが、少年は登ることを止めていなかった。

「ちょっと待った!おい!話を聞け!」

「え!なに?門開けて入れてくれるの?」

「なぜ、入ろうとしてる?」

「お前を斃そうと思って。」

「話を聞いてたか?」

「うん。だけど、もういいよ!僕はお前を斃して英雄になるって決めたんだ!誰が何と言おうと、僕はそれに向かって進むだけだ!」

「わかった。なら、もう少しレベルを上げてからまた来ればいいだろ?今のままでは、負けるぞ!死ぬぞ!」

「…」

少年はもう魔王の話に返事をしない。

「ヤバい!ヤバい!どうしよう!全然話を聞かないぞ!アイツ!」

魔王はパニックになり、最終手段に出た。

「ゴゴゴゴゴゴ!」

「門は開けてやる!しかし、魔王の城は罠だらけだ!暗闇の迷宮の中で落とし穴、槍の雨、水攻め、火の矢に襲われるぞ!お前はここまで辿り着けずに死ぬ!絶対に死ぬからな!逃げるなら今の内だぞ!引き返してもいいぞ!無駄に…」

少年の姿は見えないが、魔王は無我夢中で脅し続けた。今までの度重なる勇者の訪問にかまけて魔王は何もしていなかった。だから、魔王はただひたすら勇者の恐怖を煽る言葉を言い続ける他なかったのだ。そんな極限状態で魔王の視界はどんどん狭まり、周りの音も聞こえなくなっていく。

「ズシャアアアアアアンンン!」

「ギャアアアアア!」
魔王は背後から少年に斬りつけられた。魔王は少年が門の近くで動けずにいると願っていたが、少年は迷わずダッシュで城内を駆け抜けた。魔王は少年の覚悟を見誤っていた。どれだけ邪魔をしようが、少年の純粋な心が揺らぐことはなかったのだ。その後、少年は神に祝福され、英雄となった。