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嵯峨野 嘉竹 詩集 〜 詩集(その7)

嵯峨野 嘉竹

著者:嵯峨野 嘉竹
詩集3冊、私小説「私は猫なのね」などの自著がある。

嵯峨野 嘉竹 詩集 〜 詩集(その7)

青空

 
青空に満たされた場所は どこに在るのでしょう
何も心配のないということではないんですが
いつも暖かな心の休まる場所は どこに在るのでしょうね
そこに住む人々はいつも和やかで
男たちは伸び伸びとして仕事に精を出しているのでしょうね
夜には子供たちにおとぎ話を聞かせたり
昔話を語って聞かせる大人がいて
陽の当たる庭では犬や猫に食事をさせながら
さりげなく頭や体を撫でていたり
誇らしげに咲いた花達に水をあげながら
輝く瞳で「綺麗に咲いたね」と声をかける子供たちがいる
家の中では縫い仕事をしたり 
湯気を立てて食事の支度をしつつも
日向で居眠る年寄りに そっと羽織を掛ける女たちがいる
そんな人々の住む世界の上には
何にも汚されることのない
大きな青空が広がっているのでしょうね
私たちの世界には青空がない
温もりを忘れ去られた空間だけが冷たく肌に触れている
元にもどそう
元にもどることなんだよ
何ていうことはない ただ元にもどればいいことなんだよ
人の心も社会の拘りも自然な姿にもどせばいいんだ
生きるって 
食事をして寝ることを繰り返すことじゃないんだ
生きるって 息をすることなんだよ
生きるって 人々の息を聞くことなんだよ
人の息で 空の色が青くなれるんだよ
 
 

軽薄

 
震える指で時を刻むように
何かが生まれることを人は望んでいる
その何かとは 平和なのか 温もりなのか
永遠の生命なのか
それとも
生きる希望なのか
自分では考え着かないから
誰かに その答えの決着を求めようとしている
人は その息苦しい空間を溺れながら
ひたすらに時を刻み続ける
答えを求め続けるには広すぎる時間
答えを知るには無意味な命日
答えの継らない魂
そして 妥協のない終焉がある
 
 

親と子

 
父親は 塩
母親は 砂糖
子は スープ
愛は 真っ直ぐに見ること
愛は 心に壁を作らないこと
愛は 真実を貫くこと
愛は 閃きではなく
愛は 自然にあって当たり前に築き続けることだ
 
しかし現実は あまりにもお粗末だ
愛情の注ぎ方を誤り続けた代償とは
何かをしなくとも不自由はしない時代
当然のように 目の前に準備され
当然のように 後片付けまでされる
何をするべきなのか 何がしてはいけないのか
思慮できない子供
子供の考える機能を停止させてしまった
無知な親
 
 

瞑想の海

 
かれた文化に未来は委ねられる
開かれた人々の心には希望が授けられる
恭しく訪れた翻弄は人の心を見据える
それを神仏の試しだと言う駄民がいる
偶然が生んだ閃きを悟りだと自惚れる未熟者がいる
人は謳うことを忘れ聞くゆとりさえ見失い
感動を溜め息にすり替える
所々に不揃いに散り嵌められた選択を
無意識に誤った思考が不安の籤を引く
痛みのない感情は広がりのない構想を歓迎に赴き
正されることのない真理は悲しみの余り
生まれることのない優しさを希望と名付けてしまった
 
愚考に弄ばれた人の人としての尊厳は
重身のない卵の殻に閉じ込められてしまい
最早 何を語ろうと真摯の仮面をひけらかそうとも
現実という疑いの眼差しは
切っ掛けさえも渡してはくれない
冴え冴えしい お互いを見つめ合う光景さえ
何故か当たり前に映るから
今を疑い 未来を見つめられない迷想者を育む
望むことすら忘れてしまった輩は
笑うことすら否定する孤心者を威嚇の友とした
蔑まれることを喜びと感じ
妬むことさえ美徳と 
綻びた心から膿んだ血を流し続ける
 
怖きは 心ある人たちに受け継がれた方針を支える
生きることは 支え合うことだと
 
少なくとも裏切らぬことが明日を迎える礎になると呟く
不調法とは言うに及ばず何もできぬ訳にはあらず
真摯なりと人に言わしめる度量あり
只ひたすらに倫理を追い求める我の姿ここに在りと説く
行方 瞑想の海の底に潜む心地あり
 
妬みが生きる力になるのかい
恨みが明日の生きる目標になるのかい
迫害が生きる全ての力を奪いきると思うかい
 
恐怖は
優しさのかけらを自分の中に見付けられなくなったとき
自然な感動さえ感じられなくなったとき
軽蔑に歪む目差しが
平常心で受け止められるようになったとき
臆面もなく 愛を語る偽善者を自分に見たとき
生きる気力が失せたとき
 
生きる価値の無い者とは
罪を知らない愚かさ
悩みの意義を知らない無知さを
咎められても意に介さずに
平然と開き直れる小悪者
 
 

未熟なんだよ

 
不自然という限界を越えたら
人は仲良く生きられない
当たり前とは
人が生きる基本である安らぎを
造る必要性を意識しながら
相反する行動を執ってしまう
愚かとは言わないが
未熟なんだよ
いい人生だったなと呟くのは
未熟な世代の
せめてもの有り合せの過去への言葉
しょうがねえ人生だったなと思うのが
偽らざる〆の感想
 
 

凡人に成済ました殺戮者

 
鬼がいるぞ 人の皮を被った鬼が殺しに来るぞ
そう喚き散らしながら逃げ惑う振りをした卑怯者が
一番卑劣なのは自分だと気付かぬ振りをして
自分の命を絶つ
他人に責任転嫁する弱者が
未熟な弱音を吐きながら当て付けに死んでみせる
愛が燦々と歌う歌手がいて
優しく睫に過去が憩うと書く詩人がいて
 
温もりを知らず 未来を見えぬ若者がいる
 
お前には見えるか
おれは殺人者だぞ
直接手を下すことはないが必ず死に追い詰める
卑劣な殺人者だ
それを言うなら
私だって立派な殺蟻者ですよ
何の意味もなく傘の柄で突っ突いて殺しましたからね
筈かしながら
自分も殺ゴキブリ者です
不衛生だ不衛生だと人が言うから
何の罪が在るのだろうと思いながらも
気がつけば いつの間にか無意味な殺戮を犯している
凡人に成済ました
無慈悲なエゴイストなんだ
 
 

道端の生き様

 
君は
道端を必死に進む尺取り虫を葉の上に乗せてあげたいと
思ったことはないか
ひたむきに生きる姿に接して感動を覚えたことはないかい
生きるってそういうことなんだよ

詩集 【全12回】 公開日
(その1)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年7月17日
(その2)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年8月26日
(その3)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年9月6日
(その4)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年10月4日
(その5)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年11月1日
(その6)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年12月6日
(その7)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年1月10日
(その8)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年2月7日
(その9)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年3月6日
(その10)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年5月1日
(その11)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年5月29日
(その12)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年6月30日