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嵯峨野 嘉竹 詩集 〜 詩集(その10)

嵯峨野 嘉竹

著者:嵯峨野 嘉竹
詩集3冊、私小説「私は猫なのね」などの自著がある。

嵯峨野 嘉竹 詩集 〜 詩集(その10)

未熟な卵

生あるものは 自由という囲いの中で
死の恐怖を筵に轢いて
不自然な希望という抗いを餌にして
冷え冷えとした 閉ざされてゆく運命の
骨太の誠実な感慨を否定し続ける未熟な卵

生まれるということの自由に問うならば
その生涯は修行であり 個人の自由は無く
それを強いて望むとするなら
それは社会への反逆となり得る行為と知るべきか
その中で 愛とは何かと問い求めるならば
恐怖を卓越した その存在が生み出す
真実なのだと答えたい

生きるべき示唆

人は 何かを引き換えに生きる道を授かる
その とてつもなく大きな力の下では
どんな者でも平伏すしかないと固唾を飲む
それが神仏の力なのだとしたら
笑って従う事が生きるということではない
もしかしたら
その微笑みの先に 私の生きるべき示唆があるのかも知れません

権利と義務の狭間

生きている事に感謝しなさい
周りに居る人々が敵ならば あなたは既に殺されている
今 あなたがまがりなりにも生きているということは
その人々に守られているということでしょ
人間なんて弱い存在です
一人では何も出来なく 自分を守ることも出来ないんです
生きるということは 努力なんです
生きられるということは 当り前のことではないのです
権利ではなく権利を得る為に
それ以上の義務を怠らないということなのです

人間

生きる者の中に仏の姿を見たり
生き様に 恋欲邪鬼の姿を見つけたりする
当り前の人間であったり お粗末な人間であったりする
人間の本質とは何ぞや
人間の素性とは何ぞや
踵を返す様に その生き様こそ平気で安易に変える餓鬼姿で
阿修羅の面を被り 神仏の心を内に秘めるもの
即ち 人にして人に在らず 餓鬼にして餓鬼に在らず ましてや神仏に在らず
人と餓鬼の間に放浪える 人との間 即ち人間という
些か 中途半端な存在ではある

歪曲

明光の下で見るものと
鏡の中に見るものと
何故 違って見えるのか
瞳は同じものを見ているのに
何故 同じ様には見えないのか
私は 君を素直に見つめているのに
他人は 歪曲した君の姿を映す

歩く

損する事ばかり恐れていて 何ができる
失うものを恐れていて 何が始まる
求めるものがあるなら
それが全ての希望だろ
歩く事を恐れたら次に続く勇気は無い
ひたすらに信じる心を養うんだ
弱いなんて関係ないんだ 創造する気概が
進む意欲が 明日への活力となるんだろ
それは お前も皆も気付いているんだろ

迷走

今 生きる者達は
時代に何を求めているのだろう
残された時間は あと僅かだというのに
何を求めて失われてゆく鼓動の中で迷走するのか
もう後には 何もないというのに

かっちゃん

かっちゃんは長靴を履いて歩く
つまらなそうに歩いていたり ある時は楽しそうに歩く
かっちゃんは中学生 子供たちと遊ぶのが大好き
かっちゃんが お母さんに呼ばれてお昼食を食べる
側で お母さんが優しく見つめている
かっちゃんは美味しそうに食べている
眠くなったのかな 縁側でうたた寝をする
子供達が塀越しに かっちゃんを見ている
「かっちゃん遊ぼう」と 子供達が呼ぶ
やがて一人の子供が かっちゃんをからかう
すると 他の子供達も真似をしてからかい始める
そのうち かっちゃんは怒りだす
蜘蛛の子を散らす様に子供達は去って行く
お母さんがその様末を窓越しに見詰める
仕方なくかっちゃんは家に戻る
やがてかっちゃんはふたたび居眠りをする
その寝姿を見守るお母さんの表情は曇っている
その脳裏に過るものは
お母さんがこの子を守れなくなったら
誰が守ってくれるのだろうと云う不安なんだ
かっちゃんは知恵遅れなんだ
だから学校には行けていないんだ
その状況を子供たちや周りの人間も知っているんだ
だけど誰もその先のことを考えられない
だから子供たちはかっちゃんが好きだから
いつも遊びに誘うんだ
自分たちにできる事はそのくらいだと知っているから
大人たちはお母さんにいつも話しかけ気遣いをするんだ
お母さんいつまでも元気で居てね
みんなそう願って見守っている
今日もきれいに夕日が沈む
明日も暖かな日が昇るだろう
そう 太陽の昇る町なのだ

助言(忠告)

凡人が見詰めるものは何か
口では何も出来ないと言いながら
何処が悪いのかと有識者に問う
何の為に それを聞くのか
それは 己の力が他人より劣る筈がないと信じ
それ以上の技量が潜在すると己惚れるからである
それが人間の生きる糧なのです
それは 未来に希望を繋ぐ無意識の防衛なのです
常に欲が有れば意欲が沸き
生きる目標が形になって見えるのです

助言を信じ 己を信じるならば
心を開け 忠告に耳を傾けよ
努力が次の進歩を生む
努力は必ず真実を語る
努力は形の見えない模索に一条の光明を照らす
努力は嘘をつかない
他人の助言を素直に聞く度量があれば
その飛躍は限りのない無尽の力を得る
天才とは その非力な己の力を認識し その可能性を信じ 
己との戦いに挑み 打ち勝った者に与えられる
自分自身を称えられる 自らへの唯一の褒美である

詩集 【全12回】 公開日
(その1)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年7月17日
(その2)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年8月26日
(その3)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年9月6日
(その4)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年10月4日
(その5)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年11月1日
(その6)嵯峨野 嘉竹 詩集 2019年12月6日
(その7)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年1月10日
(その8)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年2月7日
(その9)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年3月6日
(その10)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年5月1日
(その11)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年5月29日
(その12)嵯峨野 嘉竹 詩集 2020年6月30日