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ヘルスとこい 〜 Barren love 不毛な恋たち(その11)

藤村綾

風俗嬢歴20年の風俗ライター。風俗媒体に記事を寄稿。趣味は人間観察と眠ること。風俗ジャパン内・俺の旅web『ピンクの小部屋』連載中。

ヘルスとこい 〜 Barren love 不毛な恋たち(その11)

 シュウちゃんにあう。

 最近芸能界でやけに不倫ネタが多いけれどそれがどうしたおいもっと大切なことがあるだろうという声もなきにしもあらずだ。

 不倫は禁忌なことだなんて誰しもがわかっている。それでもやめられないのは体がなかなか離れていかないのと弊害が余計にふたりを盛り上げてしまからだ。あぶない橋を渡りたい願望ってやつだ。理性が利かないというとても危なげな行為。麻薬と同等の高揚感。

 お互いはいいかもしれないけれどばれたら最後たくさんの人を傷つける。駆け落ちの覚悟でもないかぎりしてはならないものだとはわかっている。法での中でも禁止されている。それでも。あたしたちはそれがわかっているからあっている。

 もう好きだはれたなどという甘ったるい期間はすっかりと終わり今はセックスをするおしゃべり友達のようになっている。6年もたってしまった。出会った頃のあわい恋心や罪悪感などは全くないし先も後もない。なるようにしかならない。彼はわかれるといえばわかったといって承諾するだろうしわかれようとは自分ではいわない。まあずるいのだ。あれだけ奥さんを傷つけておいてまだ懲りずにあっている。奥さんの身になればもうあきれてものもいえずなんなら殺されてもいいレベルにまで達している。

 昨日ヘルスの仕事にいった。あたしはファッションヘルスで働いている。もちろんシュウちゃんには秘密だ。

 もしもシュウちゃんが知ったらどうなるのだろう。そうなんだぁというふうにさらっと流してくれる、訳はないかと自問自答を繰り返しつつも従事している。

 けれど暇だった。暇だよね。うん。おとといさ6時間いてお茶だったもん。まあ平日だしね。奥の事務所の個室で眠っていたら他の女子たちが口々に話しているのが聞こえてくる。あたしは週に3日だけ出勤だけれど毎日それをなりわいにするのもなんの保証もなくて不安ではないのだろうかと首をかしげたくなる。なにせ一番景気や天候や男性の気分に左右される業種だ。

「ももちゃん、お久〜でーす」

 と迎えたお客さんの顔にちっともおぼえがない。あれ? 俺のこと覚えてるよいるよね? あたしの返事が非常に曖昧だったので食い下がる。ええ、覚えていますよぅ。お久でーすと笑う。

以前はどんなプレイだったかなぁ?どんなことを喋ったのかなぁ?と脳内のフォルダーをいくつか広げてみるけれど無駄だった。ちっとも思い出せない。
結局最後まで思い出せず帰ってからも思い出せず次のお客さんが来てもうその人のことはなかったことになる。
小太りのメガネって本当にたくさんいて似たり寄ったりでわかるわけねーしなぁとすっかり開きなおる。暇な時間はほとんどとゆうかいつも眠っていてけれどまだ寝足りなくてソラナックスを2錠かみ砕く。

苦い。最近ソラナックスを飲まないと電車に乗れないし車は近場しか運転が出来ない。

 ヘルスの仕事はもちろんお金のためにしているけれどその実。好きな人がいても好きでもない他人と体を重ねる仕事に対してもうあたしはなんとも思わなくなってしまっている。
不倫に風俗。ああなんてあたしはとても不幸な人なのかしらねぇ。なんてことなど全くもって思ったことなどはなく仕事は仕事。そう割り切って機械的にただこなしているだけだ。

 精神がちっとも安定せずけれどジャンクフードばっかり食べているので太っておなかが出てきたからあれ妊娠なんてシュウちゃんにいわれ冗談にしても地味に落ち込む。

「おまえさなぁ、飯くえよ。子どもみたいに菓子ばっかり食って」

 彼の車の中アメリカンドッグを食べていた。

「はあ、これ買ってきてくれたのはそっちじゃんよー」

 アメリカンドッグが好きだといつもいっているからよく買ってくれるので自分もよく食べるようになったと話す。

 太ってもさ、痩せても、老けてもね1日は始まり終わるの。で、いつかはね終わりがくるの。だからきっと生きていられるの。終わりがない世界ならキリがないでしょ? 

 終わりが来る。かぁ。彼はつぶやき、そうだなと続ける。あたしたちにはいつごろに終わりが来るのだろう。 

 終わりっていつ? 突然に? 終わる理由なんてあるの? こんなにあたしの中に入ってきて。冗談じゃないよ。

「あのね、」

 午後3時だった。こんな目立つ昼までも平気で助手席に乗せてしまうあたりもう過信し過ぎだ。あたしはなんとなくマフラーで顔を隠す。彼はホテルについてもナンバーも隠さない。ある意味もうばれてもいい。と腹を括っている。ようにも見える。

 あのね、あたしのくだらない話を聞きながら彼はたまにははと笑い、けれど女の話ってどうしてこう落ちがないのかなと思っている。目がいつも笑っていない。それでもあたしの口はうごきまくって饒舌になる。なにか話さないと彼がふっといなくなってしまうような気がして。
 で、あの小太りは誰だったのだろうか。アメリカンドッグをくわえながらぼんやりと考えている。

Barren love 不毛な恋たち 【全12回】 公開日
(その1)あめのなかのたにん 2020年4月29日
(その2)とししたのおとこ 2020年5月29日
(その3)おかだくん 2020年6月19日
(その4)つよいおんな 2020年7月31日
(その5)舌下錠 2020年8月31日
(その6)サーモン 2020年9月30日
(その7)シャンプー 2020年10月30日
(その8)春の雨 2020年11月30日
(その9)依存症 2020年12月28日
(その10)ワニのマフラー 2021年1月29日
(その11)ヘルスとこい 2021年2月26日
(その12)オトコなんてみんなばか 2021年3月31日