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依存症 〜 Barren love 不毛な恋たち(その9)

藤村綾

風俗嬢歴20年の風俗ライター。風俗媒体に記事を寄稿。趣味は人間観察と眠ること。風俗ジャパン内・俺の旅web『ピンクの小部屋』連載中。

依存症 〜 Barren love 不毛な恋たち(その9)

 抱きあっているときだけは猛烈に幸せだと痛烈に思うのにけれどそれ以上に本当は地獄なのではないだろうかといつも思う。

 こんなことをして今一瞬だけの快感の波に溺れもがき苦しみ取り返しがつかないほど彼に依存をしてしまい彼を彼の存在を失うことがあればあたしは本当に地獄行きになるになるだろう。いやなるに違いないし最後は必ずといいきれるくらいに死ぬだろう。

「そうそう。あのね、最近やけに涙が出てきてしようがないんだ。もともと涙もろいけれどね。うーん。なんていうのかなぁ。ふと気がつくと涙が垂れているっていうか……」

 真昼の日差しに目を細めながら運転している彼は薄く笑いながらめんどくさそうに聞き流す。 

 あ、なんかこれってまるで、あなたのせいで泣いてると捉えられそうで慌てて、あ、まあ気圧のせいかなぁとあわてて付け足した。

 気圧ってなんだそれって自分でいっておきながらその単語の意味などまるでみいだせない。情緒がひどく不安定だ。あたしは彼に悟られぬようにはーっと薄く深呼吸をして整える。感情を。

 彼の方を見るとすでに何も聞いてはいないようで口元を一文字にして、ハンドルを握っている。

 あたしは後部座席に乗っていて隣には真新しいサーフボードが存在を誇示するかのようにどっしりと置かれている。買ったのだろうか。

前見たのとは色柄艶などが全て様変わりしていた。サーフィンを趣味にしている彼は冬でも心なしか肌の色が黒い。顔が松崎しげるのように黒い。

日サロに行く暇などはないはずだからきっとサーフィン焼になるだろう。

 いつかサーフショップをやりたい。名前はもう決めているんだよ。

『ハレモク』

 出会った頃になにかのはずみでそんなことをいっていたことを思い出す。その時は『ハレモク』ってどんな意味なの?だとか、なんでその名前だとか、そうゆう細かなことなどどうでも良かったから結局聞かないで今に至る。

 その今彼は自営で公務店を始め会社名は『ハレモク工務店』だ。なんで『ハレモク工務店』なの?それもいまだに聞けないでいる。6年もたっているのに。

「おまえさってさ、いったい何時までに会社に戻ればいいわけ?やばくない?中抜けしてきたんだろ?」

 えっ?と顔を上げううん全く大丈夫だよと伝える。けれど本当はあまり大丈夫な状況ではないのだ。何せ昼休みにちょっと用事でと抜け出し会社の隣のコンビニで彼を待たし車に乗り込んだのだ。

 急に会えることになったからだ。仕事が首になってもきっと彼を優先するだろう。現場監督の彼は突然時間ができるからできた時にだけ連絡を寄越す。

「自分は?大丈夫?」

 うん。俺はいいけどと彼はいいながら缶コーヒーに口をつけた。

 あたしたちには時間もなければあえる場所も限られている。

 いつも行くホテルのゲートをくぐる。多分全部の部屋は制覇しただろうホテルに。

 407号室の部屋の前に車を停める。バッグモニターが付いているけれど彼は癖で後ろを向きながら車を入れる。わっ、曲がってるわ〜。チッ、と舌打ちをしつつ2、3度ほど切り返した後車を停める。ここの車庫は異様に狭いのだ。お相撲さんだったら絶対に車から降りられないと考えていて心の中で急に笑いがおこる。

 部屋に入るといつものように最近の近況を話す。奥さんにはいえないだろう仕事や諸々の愚痴をたくさんこぼし愚痴という名前の精液をこぼす。

 愚痴と精液は家庭に持ち込むものではないということを何かの本で読んだことがある。

なるほど。そうかもしれない。家庭に持ち込むものは『金』と『愛情』だ。愛人には『愚痴』と『精液』たまに『すき家』くらいでちょうどいいのだとあたしは思う。

あまりとゆうかあえること以外ねだってはいけない。

『我慢』も愛人になったらもれなくついてくる単語だ。

 ベッドの上で彼がリモコンでパチパチしているので、何してんの?と裸で彼の背中に抱きつく。

ん?とあたしの方に顔を向け眉間にシワを寄せつつ、いやこの映画を見たいんだけれどと前置きをしてからまたリモコンをパチパチさせる。

何をしても何をえらんでも決して画面は何も映さなかったのでフロントに聞いてみようかと彼に提案をするといいやもうといってリモコンを置いて部屋を真っ暗にしてあたしをベッドに押し倒した。

 首筋を彼の舌がゆっくりとは声を少しだけもらして体をひねる。

セックスは絶対に暗いほうがいい。

大胆になれるとかそうゆうのではなくて暗いと相手の体温から息づかい体臭などが如実に伝わってくる。

あたしは必死で彼の背中に抱きつく。

しらないうちに「すっごく気持ちいいの」とか「もっとして」とか「ダメ。そこは」とか。意思がそのまま声になって姿をあらわす。

 彼の頭を抱え込みわしづかみにし髪の毛をぐちゃぐちゃにする。

体の真ん中を貫くように彼のものが貫通をするたび体中が震えて頭の中が真っ白になる。

唯一性器と性器がつながっているときだけが自分が今生きているんだと思いしり、その瞬間にけれど絶望が襲う。

このままずっとこうしている訳ではない。

決壊をしたら彼は自然と離れてゆく。

終わらないでほしい。

このまま時間が止まれば。

いや違う。

このままつながったまま地震でもきて一緒にホテルごと崩壊しても構わないしなんなら今震度7の地震が来てふたりして死んでしまえばいいのにとさえ思う。

「コロシテ……」

 彼はもうそんなことをいっても驚かない。あたしは彼に生かされて、殺されもするのだ。こんなに愛し依存し彼だけを見つめ彼の取り巻きに嫉妬し彼の何もかもを壊してしまいたくてけれどあたしだけのものにしたい。

このままの関係でいいわけがない。疲れた。

こんなにも手の届かない存在の彼のことだけを見つめることに。

けれど、もっと怖いのは彼がいなくなることだ。もし彼があたしを捨てるあるいはもう不倫を解消したいなどといってきたらきっとあたしは練炭あるいはドラックまたはガス自殺をするか彼をめったざしにして殺し自分も死ぬかそれかどこか金曜ワイドショーのよう崖から落としてもらうか。

結局死ぬしか選択がない。

不倫をただの子どもじみた火遊びくらいに単純に考えていたけれど今では生活の半数が彼のことで一杯でいつも彼のことを考えている。

それなりに忙しいし暇でもないけれど考えている。彼のことを。彼とのセックスを。考え脳裏に浮かべ涙を浮かべニヤつきおかしな思考になっている。

頭がおかしくなったのかと思う時もあるけれど事実抗うつ剤の多様で頭は本当におかしいかもしれない。

 はてた後彼は、

「そうろうだ。そうろうだ。ごめん。ごめん。とそうろうを2回いい、ごめんと2回謝る。なんで謝るの?いいよいいよそんなこと。

あたしはクスクスと笑う。

その時のしぐさにあたしはいっそ愛おしさが増してしまいどうにかなってしまう。なんてかわいいのだろうと。

まるで子どもみたいだなぁと。

「最近さ早いな。俺な」

「だからそんなこと特になんとも思わないよ。あたしはね。イキたいときにイケばいいんだし。何も我慢することなんかないよ」

 まあなそうかな。

彼はははと笑いながらシャワーをしに洗面所にすぐに消えた。

 早くても遅くてもそんなことはどうでも良くてあたしはただだきあいたいだけなのだ。

抱き合ってキスをして繋がりたいだけなのだ。彼と抱き合うだけで心も体も全てが震える。

好きな人とのセックスほど心を震わすものなどはないと彼に出会って初めて知った。

 時計を見たら午後の2時を過ぎていてぎょっとなる。

非常にまずいぞ。彼が先にいいながら急いで出るぞと焦らす。

慌てて出たのでパンツを履くのを忘れてきたのは車に乗って走りだし少ししてから気がついた。

「マジで?」

 うん。とてもスースーするよ。

さすがにパンツを履いてないと下半身が心許ない。

 取りに行くか? 

そんなつもりなど全くないくせにいうから、あたしはじゃあ新しいパンツ買ってとせがんだ。えー。

なにそれ。彼はまたははと苦笑いを浮かべアイコスに火をつけた。

 後部座席に座った時から気になっていたのもがあってなんだろうと手にとって見てみるとそれはワニのマークがワンポイントでついた茶色のマフラーだった。

ビニール袋に入っていた。クリーニングから戻ってきて奥さんが彼にはいこれとそのまま手渡ししたに違いない。

彼はおしゃべりに興じていてガサガサというビニール音にはまるで気がついてはいない。

「えっと。手前のコンビニで降ろして」

 さすがに会社の隣のコンビニではまずいと思いもうひとつ隣のコンビニで降ろしてと頼む。わかった。車はすんなりとあっけなくコンビニの駐車場に到着をした。

「カナ」

 名前を呼ばれてひどくおどろく。

 そういえば最近名前を全く呼ばれてなかったことに気づく。

「はい」

 もうあたしはドアを開け降りていた。彼も車から降りた。ぎょっとなる。

「俺さ、コンビニ行くけどおまえは? なんかいる?」

 ううん。あたしは首を横にふる。なんにもいらないよ。じゃあね。バイバイー。といいながら慌てて手を振る。彼もじゃあと手をあげた。

 心臓が飛び出そうだった。いやもう出かかっていた。悪事がばれたのかと思って足がすくんだ。

 会社まで歩いて5分。あたしは首にワニのワンポイントのマフラーを巻きつける。

 あまり寒さを感じない1月の昼下がり。彼の匂いがほんのりする盗んだマフラーを首に巻きつけ、ながいとひとりごと。その途端あたしは涙を流していることに気がつきそれでも自分の足でかっ歩していくしかなく残った仕事を早く片付けないと定時には帰れそうにない。

Barren love 不毛な恋たち 【全12回】 公開日
(その1)あめのなかのたにん 2020年4月29日
(その2)とししたのおとこ 2020年5月29日
(その3)おかだくん 2020年6月19日
(その4)つよいおんな 2020年7月31日
(その5)舌下錠 2020年8月31日
(その6)サーモン 2020年9月30日
(その7)シャンプー 2020年10月30日
(その8)春の雨 2020年11月30日
(その9)依存症 2020年12月28日
(その10)ワニのマフラー 2021年1月29日
(その11)ヘルスとこい 2021年2月26日
(その12)オトコなんてみんなばか 2021年3月31日