小説・アップル・マーチ

～私の名前は赤羽(あかばね)フタバ、中3です～

　ここは愛知県田原市。私とカラス君が育った街だ。田原市は美しくて弱い街なの。いい所がいっぱいある街だけど、みんな買い物はとなりの市、豊橋市へ行ってしまうの。難しいことは分からないけど、経済はあまり良くないの。でも大人はお金持ちな変なところなの。

　　私、どんな女の子だと思う？　友達に聞くと変な答えが出るの。どんな答えかって？

「リンゴ」だって。赤色のイメージみたい。

　たまに〝リンゴちゃん〟って呼ばれるの。悪い気はしないの。だって私のパパ、ううん、お父さんがリンゴ農家なのだ。素敵でしょ。

　　リンゴには梨のカレがいるの。彼の名は、唐(から)須(す)イッセイ。

　　カラス君、大好きです。

　　大好きなもの、マイ・フェイバリット・シングスはまだあるの。

　　例えば、吹奏楽、鳥の神話、男の子（笑）。

　　私、トランペット吹きなの。今、夏の全日本吹奏楽コンクールに向けて課題曲の練習をしているの。

　　ちなみに課題曲のタイトルが「鳥たちの神話」なの。

　　もちろん、この曲も、マイ・フェイバリット・シングスよ。

小説・鳥たちの神話

　病院の待合室に置いてある、ザッシの記事の中で、私は〝運命〟という言葉を見つけました。

　私にとっての運命の人は2人だったということをふと思い出しました。

　一人目はとなりにすわっている優しい旦那のイッくん。二人目は、泣いて泣いて別れた大切だったあの人。

　好きになった愛しい男はいっぱいいました。

　でも、みんな優しい思い出になりました。

　私は今、とっても不幸なんです。辛くて苦しくて悲しいのです。しかしふと向こうを見ると幸せそうな女がいました。こんな醜い感情、捨ててやりたいけど、正直、目の前の幸せそうな女が、この上なく憎いのです。

　幸せそうな女は小さなハギレをつなぎ合わせてパッチワークをしているようです。しかし、パッチワークにしては色合わせが変なのです。よく観察してみると、着古した服を四角に切ってつぎはぎ合わせて、子供のためのおくるみを作っているようです。

　そうです、私、こういう行為が一番大っ嫌いなのです‼

　アイツには子供がいるのです。それに対して私は子供ができない女なのです。だから私はアイツが嫌で嫌でしょうがないのです。

　2人の女はそういう運命なのです。

　これが幸せになりたい不幸な女の心情なのです。

　ここは東西に長い半島、渥美半島にある、田原市。主な産業は農業と自動車の製造業。目立ったレジャー施設はなく、5月中旬に大きな凧まつりが行われる市です。

　でも、私、唐須レイナにとってあくびが出るくらいとっても退屈なところが田原市なのです。

　運命と感じた男に結婚してついて行ったら、こんなへんぴな、見わたす限り緑色のつまらない所に居たのです。

　本当に私は不幸な女だと思いました。

　しかし、こんな所に幸せそうな女が一人いました。名前は高田フタバといいました。

　そう、フタバは私のもう一人の運命の男の妻の名前です。

　私の運命の男の名は高田サブロウなのです。

　高田は昔と変わっていなかった。10年前と同じくらい輝いていた。キリッとした瞳、少し尖った鼻、浅黒い肌、まるでダイヤモンドみたいにキラキラ輝いて光を放っている。

　ダイヤモンドに対して、私はどうだ。まるで腐ったリンゴです。腐って食べられないリンゴにはカビた梨がちょうどよくつり合うのです。

　腐ったリンゴとカビた梨、最悪の組み合わせだわ。

　なぜ、子供が出来ないのか？　それは私は不妊で、イッくんは種が少ないからです。

　対してどうだ、高田はダイヤモンドのように輝き、フタバは真珠のように内側から光をたたえています。

あとがき

　鳥たちの神話、私の一番大好きな神話、ギリシャ神話の白鳥座の神話からインスピレーションを得て作ったお話です。私、神様が人間に恋をするっておかしいとずっと思っていました。神は全知全能だからです。でも〝神〟を調べるとよく分からないのです。例えばギリシャ神話のゼウスは結婚の神、ヘラと結婚したのに、浮気性、アマテラスオオミカミはハダカおどりが見たいが為、とびらを開き、ゾロアスター教の神は2人だったり、神様は人間らしく面白かったのです。

　なぜ人に恋をしたのか？

　たぶん人は進化するから面白いのです。ポケモンと同じだから夢中になりルールをやぶる人や（神）もいても不思議はないのだと感じました。

　鳥たちの神話は本当は吹奏楽の課題曲からとりました。短い曲なのでぜひ聞いてみて下さい。

「月は優しく愛を照らす」和田直也