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第十一話「空との別生活」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その11)

さくら

三重県出身、1976年生まれ。
子供の頃から本が好きで、小説、漫画、アニメなどあらゆるジャンルの作品を見ます。

第十一話「空との別生活」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その11)

 私の一人暮らし生活が始まりました。

空と離れて暮らすなんて始めての事で、最初はどうしたものか、部屋の中をうろうろ歩き回ったり、意味不明な行動をしていました。

しばらくするとちょっと落ちついてきました。

まだテレビが無かったので、私のさみしさを紛らせてくれるのはマンガ本と携帯ゲームでした。

 空はしばらくの間、休みでも帰っては来られませんでした。

ラインをしたり、電話をしたり、今まで出来なかった事をしようと、二人で楽しい事をこれからどんどんやっていこうと計画しました。

 今まで行きたくても行けなかった所へ行ったりしよう、気になっていたお店へ行こう、などと話しました。

自由になったんだから、色々楽しみたいという生きがいのようなものができました。

仕事も前より楽しくできるようになってきました。

 まずは何度も行こうと言っては断られた、いやだと言われ続けてきた花火大会に空と二人で行く事にしました。バスで行くツアーがあったので、募集が始まったらすぐに申し込みました。まだかまだかと行くまでがとても楽しみでチケットが届いて、当日がいい天気であります様にとお願いしました。

色々と下準備もして、当日は本当に良い天気で、花火大会も本当に良かった。

空はたくさんの人混みを見て、母ちゃんと来るよりも彼女と来なあかんなあと言いました。私は「母ちゃんとでもいいやろ、母ちゃんは空と来れて楽しいし嬉しいぞ」と言うと空も「楽しいよ。来て良かった」と言ってくれました。

 帰ってからも「良かったわ」と私が本当に楽しかったと言っていると空も「良かった。母ちゃんも楽しそうで良かった」と二人の良い思い出が出来たと思います。

 そしてまた日常に戻って毎日仕事をがんばって、次は何をしようかと、空と二人で話していると、私の大好きなアーティストが近くでライブをやるという情報をネットでみつけました。

早速空に言うと一緒に行ってくれるというのでチケットの抽選に応募しました。

当たれ当たれと祈っていると、見事当選しました。

とにかく当たって良かった。

私と空も人生初のライブに行く事ができます。

 何といっても初めてなので、私は行った事のある人に話を聞いたり、ネットで調べてみたりと行くまでの間をとても楽しんでいました。グッズを買うのに並ぶとか席は当日のお楽しみだとか、知らない事ばかりでわくわくです。

 そしていよいよライブ当日、私と空にとって記念すべき人生初のライブ参戦です。チケットを忘れずに持って、会場へ着くと、駐車場にはアーティストのツアーバスが止まっているのが見えました。そわそわする気持ちを落ちつかせて駐車場に車を止めると、すぐに何人かが集まって、それぞれに写真を取っているツアーバスの所に行って、私もたくさん写真を取りました。

いよいよ会場へ向かうと長い例が出来ていました。何だろうと、とりあえず並ぶと、空が前に行って聞いてきてくれました。

「グッズを買うのに並んでるみたいやから並んだ方がいいよ」と言うので二人で並びました。

 だいぶ早めに着いていたのでグッズを買ってから、まだしばらく始まるまでに時間があったので、皆がしている様に、買ったライブTシャツに着変えたり、買ってきたおにぎりを食べたりしているうちに、どんどん人が増えてきて、トイレも長い例ができていたり、すごいなあと、私も空も見る光景に圧倒されていました。

 そうこうしている間に、私と空はとりあえず中に入って、チケットをスタッフに渡すと、番号の書かれたチケットと交換してもらい、パンフレットやアンケート用紙をもらいました。

 空と二人で席を探して座りました。

初めてなので、そこが良い席なのかどうかいまいち分かりませんでしたが、ブロックになっている一番前例の一番はしっこだったので、前にカベがあり、タオルをかけたりもたれかかったりできたし、はしだったので出入りが楽で良かったです。

 いよいよライブが始まるともうテンションが上がり、知らない曲でもノリノリの大興奮です。空も知らない曲ばかりだけど楽しんでる?と聞くと、知らん曲ばっかりやけど、それなりに楽しいよと言ってくれたので良かった。

今日はマイナーな曲ばかりを集めたというアーティストの言葉にえっと思ったけれど、知っている曲が出た時には「やったー!!」と会場もすごく盛り上がっている様子でとても良かった。

 初めてづくしの楽しいライブにすごく興奮して、今までにないくらいテンションが上がって、気が付くと、もうライブも終りに、すごくトイレに行きたくなってきたので、下調べしていた通りにアンコールが始まったらすぐにトイレに並びました。

 トイレに並びながらもソワソワして早く戻らないと始まってしまうと、急いで急いでと大急ぎでトイレを済ませて席に戻ると空が待っていました。

「母ちゃんアンコールおもしろかったよ」

「調べていた通りやった」

と話してくれて「母ちゃんも見たかったけど、がまんできやんだわー」

といいました。もう最後だと思うと盛り上がりました。

最後のあいさつをしているのを聞いて本物はやっぱり違うなあと、何メートルか先にアーティストがいるんだなあ、同じ場所に居るんだなあ、もうお別れなんだなあとしみじみしていると、もう無いみたいやから早く出ようと空が言いました。初めてのライブなので帰り時がいまいちわからなかったのです。

ちらほら帰る人達にまじって会場を出る事にしました。

しかし、私は名残惜しいというかまだ帰りたくないここに居たいという気持ちで、いつまでも、少し進んでは振り返りといった感じでなかなか進まず、空に手を引かれながら外へ出ました。

 外へ出るともうかなりの人が出て来ていました。

空は「母ちゃん早く行かないと車出せへんよ」と言って、私の手を引っ張り走り出します。ちょっと待って待ってと、私は空につかまって一緒に走って車まで行きました。少し車の列が出来始めていました。

ライブは終わった後、帰るのも大変なんですね。

私は空に引っ張られて早めに会場を出たのでそんなにひどい渋滞には会わずに帰れました。

 ライブ会場でははずかしいからと言って一緒に写真を取ってくれなかったけど、家に帰ってからはいいよと言ってくれたので、ライブTシャツで空と二人並んで写真を取りました。そして空としばらく「良かったなあ初ライブ」と言って話して、なかなか落ちついて寝られませんでした。

一度は行ってみたかったアーティストのライブ、本当に行ける事ができて、今までの私の人生では考えられなかった事なのでまるで夢の様な出来事でした。

私の人生で一生残る空との楽しい思い出となりました。

 ライブが終わり空はまた仕事で自分のアパートへ帰って行きました。

私はまた一人の生活に戻ります。

やっぱり楽しかった後の一人はとても寂しいものがあります。

しばらくは会社の人達にライブの事を話したりして楽しく過ごしていましたが、空に会いたくて仕方なくなってきます。

ラインをしたりしていましたが、やっぱり一人で何をしようとなった時には漫画です。

 私と空は漫画、アニメが大好きなので、次々読んでは買ってきて、一日中読んでいたりします。 次に空が帰ってくるのが5月の連休だというので、する事探しを私は始めました。せっかくだから一度空の所へ行ってみようと、何かいいお店とかないものかと色々検索する毎日これもまた楽しみな事です。

 私はあまり電車に乗って都会の方へ出掛ける事もないので大きな駅に行くと、右も左も分からない状態になってしまいます。空からだいたいの事は聞いていましたが、いざ行ってみると、最初に空の引っ越しで一度は行っているのですが、やはりさっぱり分かりません。こういう時は、人に聞くのが一番だと、駅員さんに聞いたりしながらなんとか空の住む町の駅までたどりつく事ができました。

 近くのファミレスで待ち合わせて一緒に色々食べて飲んで、空の仕事の話とかたくさん聞いて一緒に寝るか?と言うと嫌だと言われ別々に寝ましたがとても楽しかったです。

 翌日は電車で少し行った所にとても美味しいパン屋さんがあるとテレビで見たので、私が行ってみたいと言って空と二人で買いに行く事にしました。

 とてもおしゃれなお店でどれも美味しそう、本当にテレビで見たのと同じだと、私も空も、どれにしようかと迷いましたがたくさん買い込みました。

パンを買って、今度は私の所へ空も一緒に行く事に。

二人で電車に乗って、買ったばかりのパンを朝ご飯にしながら家に帰りました。

電車の中で、パンが美味しいので、もう止まらなくて私も空もむしゃむしゃ食べました。

 私の妹すみれ一家と久しぶりに会う事になっていたので、皆で近くの銭湯に行ってお昼ご飯を食べたり買い物したりして、楽しい日は一日が早いですね。

あっという間に空はまた戻って行ってしまいました。

 今度は夏休みに帰ると言うので、また少し長い間あえないなと思い、寂しく思いました。また会うのを楽しみに頑張って仕事しようと思うと明るい気持ちになれます。

そんなふうに毎日過ごしていたのですが、私は新しく貼り出された公休表を見てちょっと考えました。

 連休があるではないですか。しかも土日が入っていたので、これはしめしめとばかりに空に連絡しました。空はどこか行きたい所があったら調べといてと言いました。