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第七話「空」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その7)

さくら

三重県出身、1976年生まれ。
子供の頃から本が好きで、小説、漫画、アニメなどあらゆるジャンルの作品を見ます。

第七話「空」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その7)

 私の子供(空・そら)は小学校に入るまでがとても大変でした。

空という名前は名前本を隅々まで見て2つの候補を選んで、その2つの中から夫が決めた名前です。

とってもかわいい男の子で、私は何としてでも自分が守るんだと、気合いを入れて育てました。
あまりにかわいいから誘拐されては大変だといつも目を離す事はできません。
まだ産まれて一才になるかなというぐらいの時に空は高熱を出しました。
私は心配で急いで病院へ連れて行きました。胃腸炎ですぐに入院しないといけないと言われ、大慌てです。
小さい子供が入院する時は親も一緒に泊まり込みです。
おっぱいもあげてはいけませんと言われて空は絶食になり、点滴をされました。小さな手に点滴が付けられて、とてもかわいそうで仕方ありません。
私は自分が身代わりになってあげられたらどんなにいいだろうと、このまま死んでしまうんじゃないだろうかと、本当にどうにかなってしまいそうな気持ちでいっぱいでした。
 いくら母親でも、どうにもしてあげられないんだなと、早く元気になってと祈る事しかできませんでしたが、小さな空を抱きしめました。
 空は十八日ほどで無事に退院する事ができてひと安心したのですが、またしばらくすると高熱を出して、再び胃腸炎で入院する事になりました。
ご飯をあまり食べないし、子供らしいコロコロした体つきじゃなく細い様子などで心配はしていたのですが、空が心配で仕方ありません。
今回も無事に退院できましたが顔にしっしんができたので病院へ連れて行くと、アトピーだと言われました。
これはやっかいだなと夫と2人で色々な病院を探しました。
薬をもらってあまり治りが良く無いとまた違う病院へ連れて行ったり、温泉が良いと聞くと毎週日曜日には夫の仕事が休みなので空を温泉に連れて行きました。
温泉水を持って帰ってお風呂上がりに顔にぬってから薬を付けたりしてようやくきれいに治りました。
 そんな中私達の住んでいる借家の大家さんから、家が古くなったから取り壊すので出て行くようにと言われました。
新しく住む所を探す事になり、色々借家等見て回ったのですがあまりいい所が無く、義母はとんでもない事を言い出しました。
夫の妹の子供達が家から近い所に通う為に同じ学区で家を探すようにと私に言いました。
 夫と話し合って家を新しく建てる事にしたのですが、土地付きの建て売りでこれだというものが無く土地から買う事になりました。
でも小学校から遠くて空が歩くのにちょっと大変だよねと言ったのですが、他にちょうどいい所が無くて、義母は空は歩けばいいよと言いました。
 私は何てやつだと思いましたが、夫もそこにしようと言ったのできまりました。
家を建てる事になり、忙しくなりました。
少しずつ家が出来てくると、近くだったので見に行きました。
空のお家だよと夫は空を連れて、見せていました。
 図面や細かい事を決める時に忙しいからと夫はあまり真剣に関わらなかったのに、家が出来上がってから色々と文句を付けました。それじゃあもっと真剣に話しを聞いて関わっておかないといけないと、私は思いましたが、夫はそういう人なのです。
いつもそうなんです。後から文句を言いだして人を困らせる人なんです。
 とにかく新しい家が出来て引っ越しです。
新しい家に移って空が急に歩けないと言い出しました。
また甘えん坊さんが抱っこしてほしくて言ってるのかなと思っていると、行こうとするけど歩けないと言います。
おかしいなと色々見てみると、足が少し紫色になっていたのでこれはおかしいと思い病院へ連れて行くとまた入院する事になりました。
原因を調べてみるとアレルギー紫斑病だと言われました。
動いてはいけないし、ぶつけたりしてはいけないのでベッドの周りをタオル等で巻いてガードしていました。
一週間ほどで退院しましたが、しばらくの間トイレに行くにも抱っこして歩かせない様にしていました。
よく病気になる弱い子だなと私は空の事がとても心配です。その度にお金も掛かってしまいます。
空の体も心配だし、お金の事も心配です。
 空が保育園に通うようになったので、私は働く事になりました。空が保育園に入る為にカバンを作ったり色々準備は楽しいものです。
 はじめて保育園に行った日、空は楽しそうに「バイバイ」と私に手をふって、教室に入って行きました。
わんわん泣く事も無く、行ってしまったので、何だか少しがっかりしましたが、喜んで行ってくれて良かった。ひと安心です。体験保育とかしていたので、もう慣れてくれていたのかも知れません。とにかくこれで私は安心して働く事ができるのです。
 だけど、うまくはいかなかったのです。
空がまた高熱を出して入院する事になったのです。
今度は咽頭炎でした。
夜に高熱を出してわけの分からない事を言い出したので急いで病院へ行きました。
私も仕事をしだした所だったのですが、しばらく休ませてほしいと言うと、クビになってしまいました。せっかく働き出したと思ったら空は入院するし、仕事はクビになるし、最悪です。また仕事探しをしなければなりません。
 私はまた空と一緒に病院のベッドの上です。
でも何をいっても空はかわいくて仕方ありません。
一日中、ずっと私と空は一緒です。
空はとっても嬉しそうにしています。
本を読んでとか甘えています。
自分が身代わりになってあげられたらどんなに良いだろうと思いました。
世の中の母親なら誰でもそう思うものかも知れませんが、どうにもしてあげる事ができずにただただ祈る事しかできないのです。病院ではずっと空と一緒だったので、空が退院すると私は仕事探しを始めました。
空が元気に保育園に行ってくれると私もひと安心できます。
子供を育てるという事がいかに大変な事なのか、男の子は体が弱いと聞いてはいましたが、空は本当に体が弱くて心配ばかりです。かぜやインフルエンザはすぐに移ってくるので病院の先生と空は仲良くなってしまうほどでした。
入院はしなくて済んでも、自宅で休むという事もよくありました。
 空の保育園で発表会がありました。私はもう感動で涙が止まりませんでした。
自分の子供が、空が他の子供達と一緒によくこんな事ができるようになったんだと、自分の知らない所で空は成長しているんだと思うと胸がいっぱいになりました。
その発表会の後、空は熱を出して皆より先に帰る事になりました。
 運動会では夫がはりきって走っていました。
夫も空が皆と一緒に色々な事をする様子を見守っていました。
元気な空を見ていると、私はとても嬉しくて、入院していた頃を思い出したりしていつも泣けてくるのです。
 保育園では色々な行事があります。遠足や夏祭りや文化祭、空と一緒にいられる事がとても幸せなのです。
いつも私は空をぎゅーと抱きしめるのです。
 夫は空をどう思っているのだろうか?少し考えてみました。やたらとおもちゃは買ってあげるんだけど、あまり一緒に遊んだりはしません。どこかに連れて行ったりとかはするんだけど、おもちゃで遊ぶ相手をしたりはしないんです。
私が空と遊んでいると
「お前まで子供みたいに何遊んどんの」と怒って来たこともありました。
接し方がわからないのか、それとも気分なのかよくわかりません。
夫の弟の子供とは夢中になって遊ぶのにどういうことなんだろう。
空も少しずつ体力がついてきたのか前のように体調を崩しません。小学校に行く準備を進めていた頃です。
夫の母がランドセルを、さくらの母はベットと机を買ってくれました。
空もとても張り切っており、おもちゃでいっぱいになった部屋を片付けて綺麗にしました。そこにベットと机を配置して、すっかりお兄ちゃんの部屋になったようでした。
はり切っていた空でしたが、やっぱり一人ではよう寝ないと今までの様に私と一緒に寝ました。
 私は空の成長がとても嬉しくてとても幸せだとばかり思ってもいられなかったのです。
夫は自分がすごく働いていてお金もたくさん貯まっているはずだとすごく言ってきますが実際はそうではありませんでした。私がムダ使いする事も無く、ブランド物なんて持ってないし、どこへ出かける分けでも無く、毎日のおかずも、そんなにいい物でもありませんでした。だけどお金が全々貯まらず生活にも困るほどでした。
 私は自分の持っていたアクセサリーや着物等お金になりそうな物は売りました。それでも電気代等が払えず、夫に言うとなぐられるので、こっそりと夫のカードから借りて払っていました。
明細書を夫は見ないので、返してしまえば大丈夫だと思っていました。
何度も借りているうちにすぐに、もう限度額になってしまい借りる事もできなくなってしまいました。
そんな時に夫がなぜか明細書を見せろと言ってきたのです。
私はもうだめだと思いながら見せました。
 思った通りになぐられけられ「何でや」「何でや」と言われ続けて、夫の酒代飲み代パチンコ代、無いと言えば怒ってくるから無いと言えずに借りてでもあるようにしていたと言ってもまったく聞こうとしません。
全部さくらが悪いんだ、要らない物をかっているにちがいないからよく考え直せという事でなっとくしました。
 私はママ友や仕事仲間とのランチ等一切を断り、ほしい物も全部見てるだけにしてがまんしてきたのにお金は足りません
 どうにもできずに闇金融に電話して、お金を借りてしまいました。
 私は親切に話しを聞いてくれたのでこの業者は大丈夫かなと思っていました。
最初はちゃんと返済もできたので問題ないだろうと思っていたのですが全然ちがったのです。
一回支払いが遅れると電話での対応が一変したのです。
もうどうしようかと、2階の窓から外を見ると悲しくなってきました。
もう死んでしまおうかと思えてきました。
だけど空を置いてはいけない、夫にどんな目にあわされるかと思うと死ぬ事もできません。
そうこうしているうちに闇金は仕掛けてきたのです。
 まずは自宅の電話がジャンジャン鳴ります。
 早く払え、ご近所にも言うとの罵声を浴びせられ、身に覚えのない宅配ピザが届いていました。
そしてある日私が仕事から帰るとポストにメモが入っていました。
「今日はせっかく来たのにお留守でお会いできなくて残念でした」と書いてありました。
そのメモを見た時に背中がゾクゾクとしました。私はヤバイと思い警察へ行きました。
警察では色々聞いて闇金にはもうお金は払わなくていいと言われましたが電話はやっぱり掛かってきます。
夫は仕事もうまくいっていない様子でパチンコばかりいきます。
 私は闇金も恐いけど、夫の方がもっと恐いと思った。
そこで考えに考えてようやく家を出る事を決めました。