著者プロフィール                

       
第六話「母から逃れて」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その6)

さくら

三重県出身、1976年生まれ。
子供の頃から本が好きで、小説、漫画、アニメなどあらゆるジャンルの作品を見ます。

第六話「母から逃れて」 〜 泥沼の底から光の射す大空へ(その6)

 いよいよ出産予定日の朝、私はお腹が痛くて陣痛だと思い、産院へ行く事にしました。運のいい事に、この日は日曜日で夫も仕事が休みで家にいてくれたので本当に良かった。一応母に陣痛みたいやで病院に言って来ると言うと、男とベッドの上から「行ってらっしゃい」とひと言だけ言うと手をふっていました。後から行くからとかそういった言葉もありません。
バカ親めと思いながら夫と病院へ行きました。病院で診てもらうと、まだ子宮の開きが小さいから一度家に帰るようにと言われたので家に帰る事になりました。家に帰ると母がまるで分っていたかのように「そうさまだ早いと思ったわ」と言いました私はイライラしていました。
何で何も教えてくれへんかったんやろう、三人の子供を出産しとるんやから何らかのアドバイスをするとか自分の娘が出産するんやから何かあるでしょ。
けんかしてても普通なら母親として娘を気遣う事ぐらいするものだと思いますが、この親は普通じゃない。
私と夫が自分達の部屋でどうしたものかと様子をみながら待っている時も、ただの一度も様子を見に来る事も声をかける事も無く、母に対するいかりがこみ上げてきました。
何の為に実家におるんやろ。実家にいていい事なんて一つも無く、むしろ悪い事ばかりです。
お金が無かったから仕方無かったのが、さらにお金が無くなってしまった。
こんな事なら二人でアパートに住むか夫の家にお世話になっていた方がずっと良かったのにと、私は後悔ばかりしていました。
 初めての出産をひかえてお腹の痛みと腹立たしさや色んな感情でおかしくなりそうな私を夫が心配そうに「大丈夫大丈夫」とはげましていてくれました。
夫に見守られながらもやっぱりお腹の痛みが強いので、もう一度病院に行く事に、すると今度は入院する事になりました。

夫は自分の母親と妹を電話で呼んでくれて、2人が来てくれました。
夫の妹には2人の子供がいるので私の腰をさすってくれたり「出産は大変やけど、先生も看護士さんもおるし、大丈夫、安心しな、初めての子供はなかなか産まれてこうへんもんやでな」と言葉をかけてくれてはげましてくれました。
夜になってもなかなか産まれて来ないので、夫の母と妹は帰りました。
私の母は来ません。私は朝ご飯も食べずにずっとお腹の痛みと戦っていました。ポカリをもらって飲んだのですが、急な吐き気がして思わず「吐く!!」と叫んだら看護士さんがさっと入れ物でキャッチしてくれました。
出産について私は自分なりに本を読んだり、勉強はしていました。
出産時に吐く事もあると書いてあったので本当にその通りだと思いました。
 本当になかなか産まれて来なくて、ものすごく疲れてすごく寝むたくなりました。本には寝むくなるとは書いてなかったと思います。
まだまだ産まれて来ないから本当に寝てもいいかと思うくらい本当に寝むかったのです。

そうこうしているうちに人工的に破水とか陣痛促進剤とか使って急に慌ただしくなってきました。私も寝むたかったのがうその様に急に陣痛がひどくなり何が何だか分からなくなり呼吸法とか教えてもらっていたのもできなくてパニックになっていると看護士さんが「大丈夫落ち着いてヒーヒーフー」と一緒にしてくれて、私もやっと落ち着いて看護士さんと一緒に「ヒーヒーフー」としていると「赤ちゃんの頭が見えてきたよ、もうちょっと」私には見えなかったけど夫がしっかり見ていました。赤ちゃんの頭をスポッと吸引して、ようやく産まれました。「オギャー」という元気な声が聞こえた時は本当に良かった。
「産まれたんだ!!」とほっとしました。
 すぐに私のとなりに赤ちゃんが連れられて来て、「え、どうすればいいの」とか思う間に夫と3人で写真を取ってもらって赤ちゃんはまた連れられて行きました。
 一部始終を見ていた夫はとても興奮していました。
「良かった良かった良くやった。」と何度も何度も言っていました。
テレビでは先生ありがとうございましたとか言っているけど、私にはそんな余裕なんて無かったんです。
朝からの出来事が夢のようで一瞬で過ぎてしまった。本当にほんの一瞬の出来事の様でまだ夢でも見ているかの様な感覚でいたのです。
先生が痛くないからこのまま傷口をぬってしまうからと言い、先生がちくりとすると、ものすごく痛いので思わず「痛いです」と呼びました。
先生は普通は痛く無いのにという様な感じで「それじゃあ麻酔をしますね」と麻酔をしてもらいました。麻酔をする時は何も痛く無く、その後も何も感じずに処置は終わり、一瞬に感じたお産よりも長く感じ、はっきりと覚えています。
 病室に戻ると夫と2人で子供が無事産まれて来た事を良かったと話しました。夫が、子供が産まれる時に吸引された時、子供の頭がとんがっていたのでとても大変だと思って看護士さんに大丈夫なのか?もとに戻るのかと聞きに行った事を話してくれました。
私が処置をしてもらっている間にそんな事があったとは知らなかったのでおどろきました。

 しばらくすると看護士さんが夕食が用意してありますが食べられますか?と言ってくれたので「はい、食べます」と私は言いました。食べられなかったら夫に食べてもらえばいいだろうと思っていました。出産中ではお腹がすいているのかよく分からなかったのですが、本当は朝から何も食べてなかったせいかすごい食欲で、全部ペロリと食べてしまいました。私はひと仕事終えた様なととてもいい気分でご飯もおいしく完食してしまった感じで「全部食べてしまったわ、お腹ペコペコやったんかなぁ。」と言うと夫もすごいやつやといった感じで私をながめて笑っていました。夫も「お腹すいてるやろうし明日も仕事やし早く帰って何か食べてね」と夫を返して私も寝ました。
 次の日は初めてのおっぱいを子供にあげました。初めて抱っこしてみると、小さいのにけっこう重くてびっくりだし、気を付けないとと思いながらドキドキしていました。
おそるおそる抱くのですが、おさるさんの様な顔で夢中でおっぱいを飲んでいる様子を見ると、とてもかわいくて仕方がないものです。
この子のお母さんになったんだなあと実感しました。病院ではおむつの仕方やお風呂の入れ方等を教えてもらいました。
 夫の母と妹が来てくれて赤ちゃんをどれどれとみて喜んでくれましたが、私の母は一度も病院には来ませんでした。
保険のおばちゃんも来てくれて、私の母が来ない事にとてもおこっていました。母は一度夫に「これを持って行きなさい」とパックに入った味ご飯を渡しました。
夫が母に渡されたと言って出して来たのがパックにに半分取って残りの半分をさくらに渡す様に言ったそうです。
夫に「食べる?」と聞くと「いらない」と言いました。
私には病院のご飯があるのでいらないので、もったいないけど夫にすてておいてとたのみました。本当に母は何を考えてるのか分からないです。
これには夫もあきれていました「前から変やと思っていたけど、本当に変な人やな。」と「本当に普通じゃないよね」と私も言いました。
 私は家に帰っても絶対大変だから少しでも病院でゆっくり休んでおきなさいと夫の母に言われて一週間病院で過ごし退院しました。
すぐに家事に追われる毎日が始まりました。
母は以前と変わらずです。

全部私がしなくてはならないので実家にいる方がよけいに仕事が多くて大変でした。
子供のお風呂は最初は昼間に夫の母が入れに来てくれたりしましたが、夫が仕事から帰ってから入れる事が多くなりました。

 家に一緒にいる男が子供を抱かせてくれと言うので抱かせてあげると、男は私の目の前で、子供をベッドの上に落としました。
「え!!何しとんの」

私はものすごくびっくりして子供を抱き上げると自分達の部屋に子供を連れて行きました。
絶対わざとやったんだ。私はもうこの家にはおられやんと思い、夫が帰って来ると、この事は言わずに夫の家に行きたいと頼み込みました。
 その夜に必要な物だけ持って私の実家を出ました。
 私は子供に何かあったらどうしようととても心配で注意して様子をみていました。
でも夫に話したら大変な事になると思いだまっている事にしました。
 病院代は母がどこかで借りてきた様でもともと夫から借りていたお金だから返さなくてもいい事になりました。
 夫の住んでいたのは借家でかなり古く、赤ちゃんを育てるのにはあまり良くないと思っていました。
でももうそんな事も言っていられなくなりました。
結局母に借したお金はほとんど返ってこなかったので、生活は苦しいままでした。
私も子供が保育園に入るまでは働けないので大変でした。私は毎日子供をおんぶしながら家の事をしていたのですが夫の母がまた大変難しい人でした。
ある日義母の物置を猫がぐちゃぐちゃにしたのですが義母はすぐに私に「なんでこんな事をするの」とおこってきました。
又ある日は義母の育てている花が枯れていると言って私をしかりに来ます。
水をやっておいてとも何も言わずにいきなりしかってきても、私にとっては迷わくです。
頼まれていたら気にかけておきますが、それどころでは無いのです。私には考える事も多く気持ちに余裕がありませんでした。
 夫の家の近くに夫の妹が住んでいて、ほぼ毎日の様に来ている時期がありました。義母は夕方からの仕事が多かったのでお昼過ぎまでは時間がありました。妹が運転して私と子供を連れて出掛けていました。そこでも義母は私に言います。

「さくらちゃん、連れて来てもらっているんだからお昼代くらいは出したらどうなの」言いたい事は分かりますが、本当にお金に余裕が無い私は困りました。

色々と連れて行ってもらって気分転換にもなりますが、頻繁に連れ出してもらわなくてもいいとも思いました。
断りづらいですし、本当に義母にはなじめませんでした。
 夫は自分のなじみの土地での生活になったせいか、今の生活がおもしろくないのか、毎日の様に飲みに出ていました。
だんだん朝帰りする様になったり、よくおこるようになりました。
お金が無いのは私のせいだと言うようになって、カベをなぐったりしました。
確かにそうですが私はストレスがたまるばかりです。

気ばらしに出掛けるお金も無く、子供と家の週りをぐるぐる回っているぐらいです。
夫はとてもうるさい男で、私が何をしているのかとても気にしました。
用事で実家に行っている時でも「どこにおるの?何しとるの?」とよく電話を掛けてきます。
電話がなると私はドキッとします。

すぐに出ないといつも「そんな電話捨ててしまえ」と言ってきます。
スーパーで買い物中だったりすると出られない事はよくあるのに。
 夫は子供をあまり大事にしません。大事にしている様子もあるのですが違うのです。お風呂に入れたりはしてくれますが、おむつを代えたりはしないし、あまり一緒に遊んだりはしません。
公園が近くにありましたが本当に数回しか連れて行った事はありません。

ある日デパートに行った時でした。夫は子供を肩車していたのですが子供が夫の頭をぽんぽんたたきました。
すると急に子供をたたきはじめたのです。
「親の頭をたたくとは何事か」とすごい顔をして子供をたたくのです。
私は何事かとびっくりして夫から子供を必死で離しました。
夫はものすごくおこっていますが、私は「子供はだれでもするものだよ。まだ分けも分からないこんな小さい子供におこってどうするの?」と言って夫を落ち着かせました。
近くにいた人達が私達を見ていました。
夫はだまって車へ向かいました。私も急いで付いて行きました。本当に自分の子供が大事だったら絶対そんな事はしないはずです。私は夫の事をとても信用できないと思いました。