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本の「帯」はなぜ必要なのか?

書籍には、ほぼ必ずと言っていいほど「帯」がついています。

読者からすると、本を読むときにかさばる厄介者で、購入後には捨ててしまうという方もいます。

いったいなぜ、本には帯がついているのでしょうか?

 

書籍との恋は0.2秒で決まる 帯は隠れたキューピッド

「出版」をテーマとする書籍や雑誌では、広告宣伝としての意義を説いているものがほとんどです。

『出版辞典』(出版ニュース社、1971年)では「一説には、昭和初期の左翼出版物が、店頭の宣伝効果をねらって帯をつけたのが最初ともいわれる」と記述があります。

 

この記述は多くの文献で引用されており、現在最も有力視されている説といえます。

日本出版学会常任理事の宗武朝子氏は、雑誌『EDITOR』(1976年1月号)のなかで、帯の有無によって書籍が手に取られる割合は2, 3割異なるという旨の発言をしています。

では、帯はどのように「宣伝効果」を果たしているのでしょう。

 

一説によれば、ひとが書店で一冊の書籍を見る秒数の平均は、わずか0.2秒といわれています。

書籍を購入していただくには、この0.2秒で本の内容を読者に理解させ、興味を惹かなくてはなりません。

例えば帯でよく見る「重版」「○万部突破」という言葉は、「売れている書籍である」という印象づけに役立っています。

 

また著名人の名前を入れて「〇〇絶賛!」と書かれてあれば、ひとは「あの有名な人がすすめているなら、内容に間違いはないだろう」と思うわけです。

いずれの文言も、短い言葉で「良い本である」と思わせるために帯に書かれているということです。

もし皆さまがここに挙げたような理由で、書籍に0.2秒で一目ぼれしたのだとしたら、そのキューピッドは帯かもしれません。

 

もちろん見た目も大切 絢爛豪華な帯デザインの世界

上では帯に書かれている言葉に注目し、その宣伝効果を解説しました。

しかし、いくらその文言が広告として優れていても、目に留まらなければ意味がありません。

そのため、帯文の配置によっても売れゆきは大きく左右されます。

 

例えば恩田陸氏が著した『ユージニア』単行本(角川書店、2005年)の帯文は、文字の大きさや配置が不揃いで、読者の不安や心細さを煽るデザインになっています。

(なお、同書は本文の配置にもめまいを誘うような工夫が施されています。ぜひ手に取ってご覧いただきたい書籍です)

 

また、帯はカバーデザインの延長としても考えることができます。

カバーとのバランスを考え、全体として統一感のある帯のデザインが選ばれるケースです。

毎年夏限定で販売される、新潮文庫のプレミアムカバー版は、カバー・帯ともに全て同じ色で構成されており、まるでおしゃれなチョコレートの箱のようにも見えます。

このように、帯のデザインからはあの手この手で読者を振り向かせようとする意図が窺えます。

 

このことを知っておくと、書籍から本文の内容以上の、より多くの情報を汲み取ることができるはずです。

書店に足を運んだ際にはぜひ帯に注目してみてください。

「この帯はいいなあ」「自分だったらもっと良い帯ができる」──そう思った方には、もしかすると出版業の才能があるかもしれませんよ。

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