著者インタビュー

色々試行できた執筆は有意義な経験でした。

「抗命」とは、軍人、軍属が上官の命令に反抗し、または服従しない罪のことを言う。

上官の命令は、天皇の命令と心得よ、と命じられていた時代に、「抗命」は重い罪であった。
本書は、その罪を犯してでも、信念を貫き、「生きる」ことを選んだ男の、稀有な人間記録である。 

また、戦時中の満州の様子なども詳細に書かれており、歴史記録書として読むこともできる一冊。

―執筆されたきっかけを教えてください。

太平洋戦争(第二次大戦)が終わって70年を過ぎ、戦争の体験を伝える人も、伝えるメディアも日ごと、年ごとに少なくなり、戦争という歴然とした事実が風化しつつあります。一方で日本が再び戦争に巻き込まれるかもしれない事態が近づいているように思えます。私は終戦の年の昭和20年7月生まれ、あの戦争が通り過ぎて行った足音がまだ耳に残っている中、戦争を深く反省する時代の中で育ちました。

そのためか「今の政治の危うさ」に警鐘を鳴らす義務を強く感じて暮らしております。戦中と戦後を家族を守るために強く生き抜いた当時二等兵であった私の父と、敵にも味方にも幸いにして巻き添えに遭わずに無事終戦を迎えたにも拘らず、抗命行為を犯したために自死を選択した青年将校であった私の叔父、この二人の対照的な死生観が「戦争」という個人のレベルでは止めることができない外因にどう処していったかを綴ることによって、一人一人が歴史の大きな流れの中で揉まれてゆく様子を語り継ぎたいと思いました。当時の叔父に近い年齢の今の日本の若い人達が「今度は負けないぜ!」と考えていると聞きます。そのような人たちに私一人の言葉がどれだけ力があるかわかりません。すぐれた見識を持った先達の言葉も多く借りました。少しでも多くの人達に伝わることを望んで本にしました。

2015年の夏(戦後70年)70年の節目であるこの年、メディアが例年になくあの太平洋戦争の話を伝える番組を流したこともあって、私自身が日頃考えていたことをさらに強く意識する機会となりました。私の家族の中で語り継がれてきた母方の叔父(柳尚雄)の自殺の原因と理由とをこの際問い直したいと思い、長い間部屋の片隅に積んだままになっていた記録を読みはじめました。この詳細な記録は叔父が当時勤務していた陸軍の施設の関係者が日本への帰国後まとめ挙げて出版したものです。それを中軸にして書き綴った話を、大学の友人たちと交わしていたML(メーリングリスト)上に、連載物を気取って書き込んでいました。その文章を最後に編集して本にしました。

―出版前後で何か変化はありましたか?

長い間書きたいと思っていた主題でした。このテーマに取り組み、書き上げ、出版にこぎつけ、多くの人に読んでいただくことができました。そのことで客観的な歴史はもとより、私個人の思いや見識も、読者とのコミュニケーションを通じて修正、追加されたような気がしています。そういう意味では、読者と一緒に作り上げた本だと思っています。さらにこれからも次のテーマに向きあっていきたいというモチベーションを強く得ることができました。

また私自身の文体も色々試行できたことは有意義な経験でした。主題とその周辺を描くためにどのような文体が相応しいか考えることは本当に楽しい作業でした。また実際に残された記録や証言としての話に加えて自分が創作した情景を色々と描くのも大変愉快な仕事になりました。主人公である叔父柳尚雄と対照的に生きた父。その生き方に父を向かわせた世界を次は描いてみたいと思っています。

自分では意図的に抑えて書いた父の言動に、読者の多くが関心を持たれたようです。この父の話は別の機会に書いてみようと思っています。

―編集者とのやり取りで印象深かったことはありますか?

素人の私が人に読んでもらうための文章を書くために、自分の思いに振り回されて、助言を聞かずわがままを言い続け、編集担当者を大いに手こずらしてしまいました。今では申し訳なかったと反省しております。最後のぎりぎりまで校正に時間をかけていただきました。もちろん読む人のことを考えないわけではありませんが、書きたいこと、伝えたいことが溢れて押さえるのに葛藤を繰り返しました。編集担当者は根気よく毎回の打ち合せに付き合い、執筆未経験の私の生意気な考えにも耳を傾けてくれました。そのやり取りの中で、文章に奥行きが出て表現が豊かになって行く確かな手ごたえを感じるようになりました。

私が思い込んでいることが読者にはどう映るかが多くの部分で私本人には見えておらず、それを指摘され考え直し、より伝える力がある文章にすることができたと思います。

―原稿に散りばめたこだわりや制作秘話など、ご著書の紹介をお願いします。

文章の語尾を「です、ます」にするか「だ、である」にするか真剣に悩みました。丁寧な語りかけの雰囲気を持たせるか、歯切れのよい言葉使いにするか考えました。主人公の性格、話の内容の深刻さを逆に優しい語り口により際立たせることを目指しました。判断の助けとして多くの先達の文章を読み、熟慮の末「ます、です」を選びました。結果、読んだ人の中からは特に違和感があるという意見を聞くことはありませんでした。

地の文ではなく戦争の場面描写のようにリズム感と力強さが必要なところは編集者の助言に従い「だ、である」を使いました。そのために文章の流れにも内容にもふさわしいメリハリがついたと思います。また参考にした記録や手記には当時書いた人の関心のある話に内容が偏っており、深みと幅を持たせるためにも創作の文章を多用しました。中には筆が進み過ぎて創造部分が実像部分を食ってしまう恐れもありました。
しかし後書きで述べましたようにテーマがテーマのための単なる歴史考察の留まらず、私自身が生きているこの時代の背景にある問題意識も浮き彫りにすることを試みました。そのために例えば執筆と並行して読んでいた最近の文献からの引用を生かすことに努めました。


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