著者プロフィール                

       
〜 北海の大地にて女のロマンを追え(その7)

高津典昭

昭和32年1月7日、広島県三原市生まれ63歳。
昭和54年陸上自衛隊入隊。その後、職を転々として現在故郷の三原に帰り産業廃棄物の分別の仕事に従事。
平成13年2級土木施工管理技士取得。
平成15年2級舗装施工管理技士取得。
執筆活動は土木作業員の頃から。
本作は「伊東きよ子」のヒット曲「花とおじさん」が私の体験によく似ていると気づき、創作意欲が湧いた。

〜 北海の大地にて女のロマンを追え(その7)

 その夜遅く、宿泊先に戻って来た聖美ちゃんと3CNは、田中さんから健さんの話を聞き、動謡したとともに、敦子にかけられた容疑が晴れると喜んだ。しかし、殺人未遂容疑の件だけで、殺人事件が解決した訳ではない。手離しで喜べない。

「健さんが…。私、田中さんに悪くて言わなかったけど、前から怪しい人だと思ってたの」

「健さんが殺したんちゃうんかい。やったのは全部、健さんやで」

「ひどいおっさんやで。おかげで敦子さん、大変な目に合ってんねんで」

と一同健さんを批難したが、田中さんがさらに話していくうち聖美ちゃんは、

「殺したのは健さんじゃない。真犯人は別にいるはず」

と諭し3CNは、

「聖美ちゃん、人が良すぎるわー」

と言いながらも、聖美ちゃんに協力して真犯人探しを続けることになった。

 その後、聖美ちゃんと3CNは、独立で真犯人を探していた。

「なんや、ひとつも進展しいひんなー」

「せやなー。やっぱり、素人には無理なんやな」

「ごめんね。迷惑かけて」

「何言うてんねんな。聖美ちゃんのためやんけ。頑張ろうや」

「わし、ちょっと小便」

「あいつ、また小便行きよったで」

「トイレフェチやないの」

「聖美ちゃん見ててむらむらしてきたんやろ。あいつ絶対、せんずりこいとんで」

「何、考えとんねん。この緊急時に」

「あいつは、そういう奴やねや」

 3CNの一員、リードギター担当のヒロシは、大通り公園の公衆便所に入った。

 大便所に入ろうとした瞬間、後ろから何者かに肩をポンポンと叩かれた。振り向くと、いかにも悪そうな茶髪の少年が、栄養ドリンクの瓶を数本持って立っていた。ヒロシはロックバンドのため、茶髪のパンクで派手なかっこをしているので後をつけてきたようだ。

「お兄さん、一本どうですか?」

 トルエンの売人だ。なんだ?札幌じゃ、いま時、こんなところで商売しているのだろうか。そんなもんいらんわと思ったが、こいつはこの辺で遊んでいるチーマーで何かの手がかりになるかもしれないので1本買うて知り合いになったろかとひらめき、

「3本くれ」

と答えた。少年Aはぶっきらぼうに、

「1500円」

と言って金を受け取った。ヒロシはこの少年Aに問いかけた。

「こないだ、テレビ塔の下で殺人事件があったんやが、何か知っとらへんか?」

 少年Aは、一瞬驚いたように見えたが、

「知らねえよ」

と言って逃げるように出て行った。ヒロシは後を追った。こいつ、何か知っとるなと直感した。

 少年Aはビル群の谷間の路地に消えた。ヒロシは、その暗い路地をのぞいた。そこには、異様な光景があった。この路地のマンホールを少年数人が囲んでいた。そのうちの一人が、バールのような物でマンホールの鉄蓋を開けた。暗くて、遠くてよくわからないけどこれ以上近づくと危険だと思い、ヒロシは遠まきに見ていた。何人かがマンホール内に降りて行きまた上がって来た。その時、

「おい、誰かいるぞー」

「追いかけろ、逃がすな」

 ヒロシは逃げた。運動会では負けた事のない快足をとばし、とにかく明るい方へ。

 札幌のチーマー。最近増殖しており、北海道では〝暴走族壊滅キャンペーン〟を展開し、その目玉として道警・マスコミ各社は〝今後、いっさい、暴走族と呼ばない〟と全道民に呼びかけたのだ。暴走族のネーミングを廃し、そのかわりの名称として〝珍走隊〟と呼ぶことにしたのだ。TVニュース等、報道番組では、

「昨夜、札幌市の大通りを、珍走隊が珍走しました」

と報道した。それまで暴走族だと思っていた少年達は、

「珍走?かっこ悪いな。もうやめた」

と次々にバイクを下りた。〝暴走族〟というネーミングにカッコ良い、不良の響きがあったからだ。確かにこの画期的なキャンペーンは、どこの都府県の暴走族対策よりも効果が上がり、日頃、爆音に悩まされていた道民にとって安穏の日々が戻ったのだが、〝不良行為〟というものは永遠に不滅なのだ。必ず別の形に変えて存続し続ける。バイクを下りた少年達は、次々にチーマーに姿をかえていった。それがチーマーの増殖に続がったのだ。考えてみると、暴走族というのは、暴走行為をする沿線の住民や、族と同じ道路を運転していたドライバーや歩行者には、とても迷惑なのだが、チーマーはそれとは違う。どこに出没するかわからない。だから、かえってたちが悪い。ナイフを常備し、その悪だくみは巧妙だ。しかも、最終的には暴走族と同じく、遊ばせてもらうためには、後ろに暴力団がいる。チーマーの方が、暴走族よりも、不特定多数に有害なのだ。

 ヒロシは皆の待つもとへ逃げ帰った。トルエンの瓶を持って息を切らして。

「ヒロシ。おまえ、年なんぼや。まだそんなもんやってんのかいな」

「ちゃうねん。大事なことがわかってん」

ヒロシは、何かの手がかりをつかんでいる。

「それは怪しい。朝になったら、そのマンホール開けて入ってみようや」

「せやせや」

「バール買うとかな」

「カラーコーンもいるんとちゃうの」

「どっか、その辺の工事現場から持って来ようよ」

「私、ガードマンやる」

 やると決まれば、とことんやる4人だ。

 ビジネスマンが、この路地にもあふれてきた。

「この時間やったら、チーマーもおらんやろ」

 問題のマンホールを開けた。深い。中は何の変哲もないような下水道だったが、

「こんなとこに一斗缶があんぞー」

「どれどれ」

 すると、取付管からキラッと光る物が見えた。

「何やこれ」

 手をつっ込んでみると、

「ナイフやんけ。」

「ここが、あのチーマー達の仮置場なのよ」

 チーマーの隠れ場がわかったが、それと高須殺人事件をどう結びつければいいものか。聖美ちゃん+3CNは考えた。

 その夜、4人は、問題のマンホールを中心に、全方向から見張った。そのうち、路地の出口と入口にチーマーが1人ずつ張りついたので、4人は今夜はここで何かがあると予感し、場所を変えた。このビル群に建ち並ぶ無人のオフィスビルの非常階段に3人が陣取り、テレビ塔下で、3CNのヴォーカル担当のミウが連絡役となった。全員、携帯電話を持っている。着信音も、バイブに切替えた。便利な世の中だ。しかし、この携帯の110番通報メールが敦子の悲劇に続がったのは事実だ。

 チーマーが配置についたように、聖美達も配置完了した。

 しばらくすると、ある中年男が若い娘とチーマーに囲まれて、この路地に入って来た。この路地はこのチーマーのなわばりだ。暗くて遠くてよくわからないが、何かもめているようだ。若い娘は、やたら露出が多い。

「おまえ、こんな非常時に、ちんちん立てなや」

「あほか、おまえ」

「しー。静かにしなさいよ。見つかったらどうすんねん。これが終わったら、こすってあげるから我慢しいや」

「ほんまか?」

「あっ。しっ」

 見ると、リーダー格のような少年が、中年男に向かってナイフを突きつけた。露出過多の若い娘が、

「許してー。この人を許してあげてー。ごめんなさいー」

とうそ泣きをしている。

「芝居だ。あのおっさん、チーマーにはめられたんだ。おやじ狩り」

「俺もそう思うわ」

 おやじ狩りの現場を目撃した3人は、それぞれ高須殺人事件との続がりを色濃くさせていた。その後、恐かつされた中年男は、財布を取り出し、リーダーらしき少年に金を渡した後、とぼとぼ頭を下げながら、この路地から出て行った。チーマーは、今夜も、マンホールに出入りした後、大笑いしながら全員、この路地から消えた。

「高須さんは、こいつらのようなチーマーに刺されて殺されたんじゃないかな」

 3人は、聖美ちゃんの推理に同調した。

 実は、聖美ちゃんの推理が当たっていたのだ。話は、殺人事件当日に戻る。

 時計台の下で敦子と別れた後の高須のスケジュールは、けっこう忙しいものだった。敦子恋しさのあまり、メールで愛の言葉を交換し、今回の旅の目的であるメル友と夜中1時に待ち合わせした。待ち合わせ場所はメル友が指定してきたテレビ塔の下だ。テレクラの鉄則として、男の側がイニシアチブをとるべきなのだがそうではなく、高須はメル友に場所を指定してもらった。そういう時は、疑ってかかった方が良いのだが、旅行者であり安易にメル友に任せてしまったのだ。高須は、これまでのメル友とのメールのやりとりで、20才のOLと言っているが、言葉の幼稚さから女子高生だと思っていた。ロリコンの高須は、これから現役の女子高生とやれると思うと、ちんちんがたまらんちんぽになっていた。その先からは、透明のおつゆを出していた。先走り液とか、我慢汁と言われている液体を出しながら、つくづく幸せな気分に侵っていた。

 そして、約束どおりメル友が来た。メールにあったようなダイナマイトボディだ。とんでもなくわがままなボディだ。

「高須さんですか?理沙でーす」

 高須の歓喜は頂点に達した。

「よく来たね。逢いたかったよ」

 高須は理沙の深い胸の谷間から、ヘソ出しルックの柔らかそうなおなかをなめるように見回した。生つばをごくんと飲んだ後、

「じゃ行こうか?」

「どこに連れてってくれるの?」

「決まってるじゃないか」

と手を握って歩き出した時である。少年が高須達に向かって歩いて来た。そして声をかけてきた。

「おい、理沙、おまえ何やってんだ」

 少年に声をかけられた理沙はあわてたふうに、

「あっ、ごめんなさい」

 高須は直感した。どうもメル友の彼氏のようだ。せっかく札幌まで来て、しかも、こんなわがままボディを目のあたりにして何てこったとこの展開にがっかりした。ダイコン役者のさる芝居であり誰でも見抜ける芝居なのだが、高須は、敦子との詩的なメールのやり取りで、すっかり心が清らかになっていたので、いつものずるい高須ではなかったのだ。だから、理沙の芝居が見抜けなかった。それどころか、理沙をこのワルガキから救いたい衝動にかられたのだ。しかし、それは思うだけで何もできない。目の前の少年達が恐い。

 やっぱり逃げようとまた逃げ出した。すると、路地の角から見張り役の少年C・Dが出て来た。高須は観念し、少年達のいいなりになった。

 少年Aはこのチーマーのリーダーのように高須に、

「俺の女を奪ったんだべ。解決するには、大人の方法と子供の方法があるべや。したっけどっちの方法で解決するべか?」

 高須は、この幼稚な言動にあきれ何も言わないと少年Bが、

「さっきも言ったべ。兄ィは短気なんだから。どっちなんだ、答えろ!」

 高須は恐くて頭が回転しなくなっていた。事態はそんななまやさしいものではなかった。少年の怒りは高須に向かった。

「なまらはんかくさいんでないかい、この。俺の女に手を出しやがったな。このスケベおやじ!」

 理沙は、ただおろおろしているようだ。高須は、この場を早く立ち去りたかったので、

「いや、俺は別に」

と言って逃げ出した。その振り返った瞬間、もう一人の少年が両手を拡げて立ちふさがった。2人の少年に囲まれ、すぐに逃げられない事を悟った高須は最終的には金だろう、しばらく、奴らの気をそこねないように、言われたとおりにしていようと考えた。

 少年Aは、

「話があるから連れて来い。」

と言い、ビル群の谷間の暗い路地に誘導した。その路地の中ほどで止まり少年Bが、

「おやじ!このおとしまえどうつけてくれるんだ。兄ィは気が短けえんだ」

とすごんだ。理沙は泣きながら、

「ごめんなさい。最近、あまり会ってくれなくて寂しかったの」

と、少年Aにすがりついている。しかし泣きながら、

「私が悪かった。ごめんなさい」

としか言えない。

「あやまってすむ問題じゃねえべや!おっさん、淫行しようとしたんだべ。警察行くぞ」

「それだけは、かんべんしてくれ」

 すると、少年Aはナイフを突き出し、高須の顔に当てた。

「したっけ子供の方法で解決するしかないべや」

高須の背筋が凍った。理沙は相変わらず芝居を続けている。

「この人を許してあげて。私が悪かったって言ってるでしょや」

 すると、自己保身で人生を渡ってきた高須からは想像できない言葉が出た。理沙がかわいそうになったのだ。

「この娘がかわいそうじゃないか。話せばわかる」

 このおやじから、そういう発言が出るとは予想しない少年Aは逆上した。

「なまら、むかつくべや」

  ナイフを振り回した。MG5だ。このいつもと違う兄ィに殺気を感じた少年Bは、マジ顔で言った。

「兄ィ、やめてくれ!やばいべや」

   芝居ではない。しかし、理沙は相変わらず芝居を続けている。そして、清らか症候群にかかった高須は、

「刺せるもんなら刺してみろ!おまえらみたいな社会のダニにやる金なんかあるか」

と断言した。実は少年Aは今まで何百回も恐喝で使ったナイフだが、本当に刺した事はない。しかし、高須の言葉に、ついに切れた。高須をメッタ刺しにした。最初に一度刺すと、よけい腹が立って何度も何度もくり返した。少年Bは止めたが、口だけで、体を振り払おうとしない。見張り役がかけつけてやっとのことでおさまった。高須は死の直前、薄れる意識の中ではじめて理沙のさる芝居に気づいたのだ。自分が刺されているのに相変わらずの口調だったからだ。

「しまった。許してくれ。金ならいくらでもやる」

と少年Aにすがりついたが、もう弱っていて声にならない。それどころか、少年Aは高須が捨て身で自分にかかってきたと思い、メッタ刺しにしたのだ。

 おびただしい流血だ。

「死んでる」

 少年Bが告げた。その言葉で一瞬にして正気に戻った少年Aは

「わーー」

と頭を抱え悲鳴に似た絶叫を上げて走り去った。

 こうなると、悪知恵の働くのが少年Bだ。殺人現場と殺人者の証拠のあと、隠蔽工作を始めた。高須の内ポケットから携帯を取り出し、着信履歴を探しはじめました。すぐに、使えるネタを発見した。

〝テレビ塔の下、4時、敦子…〟

「なるほど…よし!この単語を並び換えて、110番にメール通報しよう」

 これが、この殺人事件の当時の概要だ。

 そして、チーマーは、高須の流した血を洗い流し、みんなで人気のない事を確認した上で、大通りを渡り、テレビ塔の下のベンチに運んだ。敦子と4時に待ち合わせしているので、敦子を殺人者に仕立てるため、ナイフを突き刺しておいた。

 しばらくして、敦子と思われる女性が来たのを確認すると、路地から、メールで110番通報した。何も知らない敦子が高須の死体に気付いたのは、その直後だった。道警はメール通報なんて子供のイタズラだと思っていたが、たまたまパトロール中のパトカーが近くを走っていた。2人がもみ合っているように見えたのでサイレンを鳴らして急行したという次第だった。

 大人顔負けの知能犯だ。高須は、このチーマーによって殺され、敦子はこのチーマーによって殺人者にしたてられたのだ。


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