本棚のある
風景

装丁家から見るルリユール

装丁は実に著書の品格と書物そのものの生命の鼓動を表現し象徴するものである
室生犀星著・自装“ 天馬の脚 ”より

装丁は西暦5、6世紀頃には、美術工芸品としてその地位を確立していました。 長い長い時の中で多くの装丁家が世に現れ、書物の可能性を問い表現の幅を発展させ、その技巧を競い続け書物を愛する人々を魅了してきました。 ルリユール(装丁芸術)の世界を語る上で欠かすことの出来ない、美術工芸品として書物を表現し続けた装丁家。

今回は、その存在に焦点を合わせ、表現の幅の広大さや装丁の意義を見つめたいと思います。

装丁が果たす役割

装丁・製本する役割を大まかにいうと以下の通りです。

  1. 読むのに便利なよう貢順に正しくまとめ散逸を防ぐ。
  2. 本によっては永く保存するため。

1、2のように製本にも含まれる役割とは明確に異なる、装丁のみが果たせる役割があります。それは、装丁の巧拙の如何によって読者・扱い手に美醜の念を抱かせることです。

書物に美を与える存在

知の器である書物はその姿が美しくすることで、人に関心や敬意といった感情を惹き起こします。 価値を見出した人間の手に渡ることで、使い捨てのような粗雑な扱いから回避されます。 ひいては書物に記された知の普及と保存に大きく貢献するはずです。 その書物の美を左右する大きな存在が装丁家です。 装丁家の技工によって書物に美しさが与えられるのです。

代表的な装丁家

今日まで書物を美しく仕上げた装丁家は世界中に数え切れない程いますが、装丁を知るうえで避けては通れない代表的な3人をご紹介します。

マリウス・ミシェル

装丁家、金箔押し職人(1846 - 1925)

マリウス・ミシェルは現代の装丁において開拓者として知られています。 現代の文学作品には現代的な装丁が必要であると述べ、本の表紙は内容を反映させるべきという信念を持っていました。その信念を表すかのように、彼の装丁はアール・ヌーヴォーの曲線的な植物の美しくダイナミックな装飾から、時に絵画的と思えるまでに描きこまれた表紙が存在します。

絵入りポスター集 / エルネスト・メンドロン

1895年の“ 絵入りポスター集 / エルネスト・メンドロン ”では、壁に貼られたポスターを眺める貴婦人の絵を彫刻してポリクローム加工のパネルで描きました。ここまで内容を反映させた美しい技巧は類をみないでしょう。 伝統的な装丁とかけ離れた表現は、当初異端とされていましたが、その卓越した技巧により影響を与えられた者は多く、模倣者が後を絶ちませんでした。それにより彼のデザインは伝統的な表現から新たな装丁技法の主流と見なされるようになったのです。

1990年の万博博覧会では、フランスの最高の装丁家という称号を得てその地位を確立しました。

ピエール・ルグラン

装丁デザイナー、イラストレーター、家具デザイナー、室内装飾家(1889 - 1929) ※生年に関して1888年といわれる説もあります。

アール・デコ、そしてモダニズムを反映させたデザインは、伝統的な表現から一切影響を受けていないように感じます。前衛的な作品の数々は当時の装丁家や芸術家に大きな衝撃を与えました。

絵入りポスター集 / エルネスト・メンドロン

マリウス・ミシェルがアールヌーヴォー的なデザインの代表とすれば、ピエール・ルグランはアール・デコの代表といえるでしょう。レザーや金箔押し、空押しを幾何学的に、そして考え抜かれ配置された装丁は渾然一体とした小宇宙を彷彿とさせます。

橋口五葉

版画家、装丁家(1880 - 1921)

日本の装丁の歴史を和装本から語るとその源流は古くここでは割愛します。大きな盛り上がりを見せた近代日本の装丁美術から始めると、橋口五葉ははじめに頭に浮かぶ装丁家です。

当時は装丁という概念が定着しておらず、書物の目的は知の保存や読むためのものばかりでした。明治38年に夏目漱石著『 吾輩ハ猫デアル 』の第1巻が刊行され、その装丁を手掛けた橋口五葉により日本における装丁美術の世界は大きく動いていったといえるでしょう。 天金が施され、扉には五葉と朱色の枠の中に猫の好物の鼠と魚が活き活きと木版により描かれています。

吾輩ハ猫デアル 装丁:橋口五葉

橋口五葉は装丁について、製本装丁の最も美術的なものは装丁家が材料に支配されず、むしろ善用し表現したものだ、と述べています。本の形や文字の配置、内容との関係性がそこにはあるため、書籍の装飾は立体的に見なくてはならないとも(大正2年画報社 美術新報より)。

装丁の意義

3人の装丁家をご紹介しましたが、彼らの情熱的な制作によって、美しい書物が多く生まれました。

ドイツの装丁研究家ハンス・ルビエルは「美しい形を持った良質な物は、その価値を倍加させる。高貴なワインを上品な形のグラスで飲む時のように、あるいは珍しい新鮮な果実が高価な美しい皿に盛られた時のように。すなわち美しく整った装丁の本を見る時、一層読書愛が高められる」とその価値を語っています。

また、優れた装丁を施された書物は、当時から愛書家やコレクターたちが高値で取引し所有していました。彼らは収集した書物のための鍵付き書棚や専用の部屋を持っていることが多く、適切な環境で所蔵していました。それが結果として長い年月を経ても美しい状態を維持し残されたことに繋がるのでしょう。

それらの書物は、現在では国の図書館や美術館に貴重な文献もしくは美術品として大切に保管されています。 日本の装丁家・版画家である恩地孝四郎は「本は文明の旗である。その旗は美しくあらねばならない」と装丁の意義を述べています。

情熱を持った装丁家たちが生んだ芸術的な装丁だからこそ、文明の旗である書物は失われることなく受け継がれてきました。そしてこの先も、書物を愛する多くの人々によって大切にされていくことでしょう。

参照
  • 庄司淺水著『定本 庄司淺水著作集 書誌編第7巻装丁の歴史』出版ニュース社、1982年
  • アラステール・ダンカン、ジョルジュ・ド・バルタ著『装幀の美 アール・ヌーヴォーとアール・デコ』同朋舎、1990年
  • 『別冊太陽 本の美』平凡社、1986年
  • 野村悠里著『書物と製本術』みすず書房、2017年
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