執筆お役立ちコラム

芥川賞作家になるには?歴史や受賞作品、候補になる条件を学ぼう

芥川賞は、日本の文学賞の代表格ともいえる権威ある賞です。書籍を読む機会の少ない人でも、その名前を知っているのではないでしょうか。

このコラムでは、芥川賞の歴史や選出条件、過去の受賞作品を解説します。
芥川賞の特徴を知り、受賞を目指すために、日頃どのような努力をすれば良いのか考えてみましょう。また、小説を書く機会の無い場合も、芥川賞受賞作品に触れることで、文学作品の新たな芸術性に気付く良い機会になるかもしれません。

芥川賞の歴史や特徴は?

芥川賞の歴史

芥川賞の選考や授与を行う日本文学振興会では、芥川賞について下のように説明しています。

“芥川龍之介賞
文藝春秋の創業者・菊池寛(明治21年~昭和23年)が、友人である芥川龍之介(明治25年~昭和2年)の名を記念し、直木賞と同時に昭和10年に制定しました。雑誌(同人雑誌を含む)に発表された、新進作家による純文学の中・短編作品のなかから、最も優秀な作品に贈られる賞です(公募方式ではありません)。 日本文学振興会HPより引用

芥川賞が創設されたのは1935年。途中、第二次大戦で中断はあったものの、約90年の歴史を持つ日本で最も有名な文学賞の一つです。
芥川賞の創設者である菊地寛は『文藝春秋』を興したことや実業家でも知られる大文豪。文芸界の発展を目指し、優秀で才能ある新人を発掘する目的でこの文学賞を設立しました。菊地寛自身の親友でもあり、大正を代表する小説家であった、芥川龍之介からその賞の名前をつけたと言われています。

芥川龍之介とその作品

賞の由来となっている作家、芥川龍之介はどのような人物なのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

芥川龍之介は、東京帝国大学(現在の東京大学)在学中に、のちに代表作として知られるようになる『羅生門』や『鼻』を発表しています。心情変化や人間の影・闇を描く繊細で巧みな表現は芥川作品の大きな魅力で、美しいとさえ感じるほど。
また、師としていた夏目漱石からも、その作品を称賛され、太宰治も芥川作品から強く影響されるなど、文学界でのインパクトは相当なものだったと言えます。

芥川賞と直木賞の違い

並列してメディア掲載されることも多い芥川賞と直木賞。これらニつの違いを知っていますか?
簡単に分類すれば、芥川賞は新人が書いた純文学作品に与えられる賞であるのに対し、直木賞は中堅(ベテラン)作家の書いた大衆小説ジャンルに与えられる賞です。
別記事にて芥川賞と直木賞の違いを詳しく解説しているのでそちらも参考にして下さい。
→『第165回芥川賞・直木賞受賞者決定! 芥川賞と直木賞、何が違う?

芥川賞にノミネートされる条件

純文学作品である

芥川賞は、純文学作品に与えられる賞です。
純文学作品は、心情や人間の内面を緻密に表現し、文章の美しさを重要視するなど芸術性の高さに特徴があります。直木賞の選出候補となる娯楽性の高い大衆小説と比べると、その違いが分かりやすいでしょう。

新人作家の小説

芥川賞候補にノミネートされる新人の定義は実は曖昧ですが、歴史を遡ると、デビュー10年以内の作家が受賞している場合がほとんどです。

作品の長さ

候補になるためには、選出基準となる作品の長さも重要です。ノミネート作品の長さに明確な規定はないものの、仮に短編の定義を400字原稿用紙100枚未満とした場合、文字に換算して約4万字程度といえそうです。

過去半年以内に発表されたもの

芥川賞は公募ではありません。
芥川賞の候補作としてノミネートされるには、過去半年以内に同人誌を含む雑誌で発表されている必要があります。直近半年間に文芸誌の新人賞受賞や、編集者からのスカウトで雑誌に掲載された作品から候補作が選出されるのです。

芥川賞受賞話題作と近年のベストセラー

近年の芥川賞受賞の話題作や、受賞後に書籍がベストセラーとなった作品の特徴を探ります。

芥川賞最年少受賞『蹴りたい背中』綿矢りさ

芥川賞最年少受賞作品『蹴りたい背中』。2004年受賞当時、受賞者の綿矢りさは大学在学中の19歳。芥川賞を同時受賞し、当時20歳だった金原ひとみ『蛇にピアス』と共に、それまでの最年少受賞記録23歳を大幅に更新したと話題になりました。

本作品の主人公は高校生。周囲との関係性にとまどい、彷徨う思春期女子ならではの心の機微を繊細に丁寧に表現しています。本作品を読めば、誰もが一度は「この感情経験がある」と共感するはず。

お笑い芸人初の芥川賞受賞『火花』又吉直樹

現役のお笑い芸人が書いた純文学作品である本作は、掲載された雑誌『文學界』が増刷されただけでなく、芥川賞受賞後にはドラマ配信や映画化、舞台化されるなど大きな話題を呼びました。2017年2月の時点で、単行本の累計発行部数が253万部、文庫が30万部のベストセラーになっています。

本作品が世に知られた当初は、「自身の経験を元に書いた私小説に過ぎない」「話題性だけではないのか」と疑問視する声もありました。しかし、実際には、明確な主題(テーマ)のもと、個人のリアルな経験や生々しい感情を丁寧に表現しています。人生をかけて追いかける夢、その中の苦しみや葛藤を描いた芸人人生を感じられる物語です。

ジワジワと売り上げを伸ばした『コンビニ人間』村田沙耶香

芥川賞受賞作品の中では、前に解説した又吉直樹の『火花』に次ぐ大ヒットセールスを記録した『コンビニ人間』。2020年9月時点で、全世界の累計発行部数が100万部を超えています。また、アメリカ、イギリスでの出版の他に約30か国で翻訳され、世界中の注目作品となっているのです。

ここまで注目されることとなった『コンビニ人間』。その内容のリアルさは、本作品の執筆当時、文筆活動をしながら実際に週3日コンビニ店員をしていた作者本人の体験が活きているからでしょう。「普通に生きるとは何か?」考えずにはいられないこの作品。マニュアル通りに生きることに心の平穏を感じた主人公にあなたはどんな感想を持ちますか?

芥川賞を目指すなら意識したいこと

芥川賞を目指す場合、具体的に何をしたら良いのでしょうか?日々出来る努力や意識すべきことを説明します。

純文学作品(芥川賞受賞作品)に触れる

芥川賞を目指して小説を書きたいなら、まずは純文学に触れることから始めましょう。
ただし、普段、活字に触れる機会が無い場合は純文学作品を最後まで読み切るのが難しいかもしれません。そこで、まずは短編を選ぶのがオススメです。

芥川賞受賞作品は短編なので最適。過去の受賞作品の中でも、話題作やベストセラー、あらすじを読んで気になった物を優先的に読んでみましょう。

体験や経験の棚卸しをする

純文学では、心の動きや人間の内面を深掘りして細かく描写する必要があります。
そこで重要なのが、リアルな経験です。ベテラン作家なら、取材や資料の調査を元に、経験したことの無い分野でも詳細な表現が可能かもしれませんが、初めて純文学を執筆する場合は実体験に基づいた物語制作が現実的。まずは、今まで経験した事柄を棚卸ししてみましょう。
なかでも、感情が大きく揺れたことや、長い年月を費やした出来事は深掘りしやすく小説のテーマ選びにも適しています。

純文学小説を書く習慣をつける

実体験の棚卸をし、小説のテーマになりそうな題材を見つけたら、いよいよ書き始めます。娯楽性の強い作品ではなく、純文学作品を執筆する意識を忘れずに主題に沿ったストーリー作りを心がけましょう。
大衆小説と違い、純文学作品として文章を練り上げるためには、登場人物の思考や人間性を追求することが大切です。芸術性の高い小説にするために、会話文や文体、感情表現にもこだわって文章を丁寧に作成する必要があります。

文芸誌新人賞に応募する

前の「芥川賞候補にノミネートされる条件」で解説したように、芥川賞は公募ではありません。賞にノミネートされるには、まず文芸雑誌や同人誌に掲載される必要があるのです。
これまでの傾向として五大文芸誌と言われる「新潮」「文學界」「群像」「すばる」「文藝」での掲載が芥川受賞作品の多くを占めています。そこで、書き上げた作品をこれら五大文芸誌の新人賞に送ってみると良いでしょう。

芥川賞Q&A

年齢制限はあるの?

新進作家による純文学作品を対象にしていますが、年齢制限はありません。最年少では10代、最年長では70代と受賞者の年齢層も幅広いです。

毎回年2回受賞者がいる?

選考は年2回、上半期と下半期に選出されますが、選考委員で会議を行い、場合によっては「該当者なし」の時もあります。

新人の定義は?

芥川賞対象の新進作家に明確な定義はありませんが、過去の歴史を見るとデビュー後10年以内の作家が受賞する場合がほとんどです。また、芥川賞対象作はデビュー作である必要はありません。

まとめ

日本の代表的な文学賞である芥川賞。1935年の創設後、大戦で一時中断はあったものの、約90年の歴史があります。

作家、芥川龍之介から賞の名前が付けられていることからも分かるように、本賞では芸術性の高さが特徴である純文学作品が対象です。一般公募ではなく、文芸誌や同人誌に掲載された短編の純文学作品から、年2回候補作が選出されます。そして、そのノミネート作品の中から選出委員による会議で芥川賞受賞作品が決定するのです。

芥川賞を目指して小説を書くなら、まずは多くの純文学作品に触れてみましょう。そして、よりリアルに緻密な物語を作りあげるためには、自分の経験を棚卸ししてみることも重要です。また、芥川賞の受賞を目指すには、同人誌や文芸誌に掲載される必要があります。そのために、小説を書き終えたら文芸誌の新人賞への応募がオススメです。特に、五大文芸誌と言われる「新潮」「文學界」「群像」「すばる」「文藝」に掲載されると、芥川賞ノミネートに大きく近づきます。

芥川賞受賞作品で純文学の芸術的な側面に触れ、あなたの読書体験をより豊かなものにしてみませんか。きっと小説執筆への意欲も増すことでしょう。

関連コラム

テキストのコピーはできません。