表現者の肖像 波田野裕基
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ミルトン・エリクソン

今、心理学というとアメリカが最先端です。心理学が「心理学」というひとつの独立した分野として成立した根っこには催眠療法があります。有名なユング、フロイトは誰でも名前ぐらいは知っていると思います。その催眠療法を現代になって現代に適した形で劇的に進化させたとされる人に“ミルトン・エリクソン”という人がいます。この人は17歳(1919年)のとき、ポリオに見舞われて、完全な麻痺をきたし、話すことと目を動かすこと以外はできなくなりました。誰もが助かる見込みがないと思っている中で意志の力で、完全麻痺から数センチ動けるようにし、歩けるようにし、最後には普通に生活できるようになりました。人生で何度もポリオの発作に見舞われながらも、その度に奇跡的な回復をして、1980年78歳で亡くなりました。結婚もしお子さんもいるという普通の人生です。

一般的にいえば、単なる身体障害者ということになるのでしょうが、著書を読んでも活動をみても、それを微塵も感じさせません。そして、語る内容はどれも考えさせられるものです。とくに、この方は身体障害者という側面を語られることはあまりないのに、そのテクニックやそのやり方、語るテーマのすごさを語られることが多いのですが、私は、実はこの人としての部分こそが本当にすごいと思います。

一般的にテレビのドラマ、小説やマンガ(アニメーション)では主人公がピンチに陥って、そこから奇跡的に乗り越えるというのは、よくある話です。しかしこの現実に実在した人は実際に現実のピンチを何度も乗り越えたからこそ、その語る言葉は実際に役に立つ。この先自分がいかに偉業を達成しようと(達成もしてないし、見込みもない?ですが)傲慢になることはできないと思います。

あの人は天才で別格だからと、割り切るという方法もあるのかもしれませんが、そんな大変な思いをしながらも最後まで普通の人と変わらず生き切った人がいたと思うと、簡単に割り切るというのはその人の生(せい)に対して、とても失礼な気がして自分にはできません。また逆に、どんなピンチに陥ったとしても、最後まであきらめてはダメだと教えられている気がします。

幻冬舎ルネッサンス新社

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