EARTH2050

No,029

宮澤 公廣

著者No,029 宮澤公廣

作品紹介

著者No,029 宮澤公廣

EARTH2050

宮澤 公廣

温室効果ガスによる気温上昇、新型インフルエンザウイルスなど感染症の脅威、2011年東日本大震災・・・
環境問題は国内外問わず、喫緊の課題として認識され始め、エコや環境衛生管理の国際的な規格としてHACCP、FSSC、ISO、TPPなど徐々に整ってきている。
食品安全の基準となるHACCPの基本としたGFSI(世界食品安全イニシアチブ)を基に各国が食品安全規格を作成している中、本書では、環境衛生基準に則るための準備をしておく必要性を説いている。現在の環境衛生問題を網羅的に理解し、「エコマインド」を身につけなければ、これからの世代のエコ重視時代に取り残されてしまうだろう。
経済ありきの考えから脱却し、新たなグローバルスタンダードを生き抜いていくための「エコ」入門の決定版。

プロフィール

著者No,029 宮澤公廣

宮澤 公廣

昭和16年(1941年)、東京在住。中央大学経済学部を卒業後、化粧品会社に勤務するも高度経済成長と引き換えに地球環境が破壊されていくのを目の当たりにして東京都公害監視委員などを経て、公害対策・環境保護活動に転身。世界的権威であるワシントン大学コール・ダニエル教授に学ぶ。1980年エコア株式会社を設立。現在は代表取締役会長。エコプランニング株式会社およびエコアオーデット代表取締役会長。元環境省環境カウンセラー、ISO14001審査員、ISO/HACCPコンサルタントなどを歴任。著書に『酸欠地球の挑戦』(TBSブリタニカ)、『酸欠地球の再生』『だれにもわかる21世紀環境戦略 経験が生み出した“環知創快”』(日刊工業新聞社)、『EARTH2050』(幻冬舎メディアコンサルティング)など。

座右の銘

サスティナブルなエコ社会をいかに作るか

サスティナブル(sustainable)とは「持続可能な」という意味の英語です。今日の地球環境が悪化していることは、誰もが共有する認識だと思います。近代社会は資本主義によって目覚ましく発展しましたが、地球環境を犠牲にしながら豊かさを追求する道は限界に達しています。私たちはいかにして便利で快適で安全な地球を、子や孫やその後の世代に受け継いでいくべきなのか――そのための基礎研究・技術開発やルール作りは各方面で進んでいます。このことはSDGsの推進にあると言っても過言でないと思っています。

経済の枠組みがグローバルに展開されていく中で、これからの政策・経営はあらゆる面で「サスティナブルであるか否か」が基準になります。この価値観を共有できない企業は社会に受け入れられず、淘汰されていくでしょう。2050年にどのような地球を残していくか――そのためにやるべきこと、やらなければならないことは何なのか。地球環境論者として、これからもマルチに発信していきたいと思っています。

インタビュー

執筆を始めたきっかけを教えてください

日本は1960-1970年代の高度経済成長期、深刻な公害問題に直面しました。大量生産、大量消費とゴミの増加。50歳以上の方であれば覚えておられるのではないでしょうか。都市部の川にはヘドロが浮いてつねに腐臭を放ち、大気は自動車や工場から絶えず吐き出される排煙で霞がかかったようになっていたあの日のことを。私たちは「豊かになりたい」と願う気持ちと引き換えに、自分たちが生まれ育ったこの国を汚し傷つけてしまいました。そして「これ以上悪化するともう取り返しがつかなくなる」というすんでのところで、公害対策に乗り出したのです。人々に環境保護の意識が芽生え、法律や条例が整備され、企業も技術開発や投資によってそれに応えました。その結果、私たちは公害や深刻な環境汚染をなんとか食い止めることができたのです。

ところが1990年代になると、それで安心するわけにはまったくいかなかったことに、私たちは気づかされました。世界は、海も、空も、空気もつながっています。自然環境保護は私たちの身のまわりの問題であるばかりでなく、地球規模での問題であったのです。
2000年代に入ると新興国の急速な経済成長に伴い、自然破壊・環境汚染は地球規模で進行していきました。全世界の森林面積は1990年から15年で1億2500ヘクタールも消失しました。化石エネルギーの大量消費は温暖化を招き、砂漠化の進行と異常気象をもたらしました。一方で地球人口は増大を続け、2050年には93億人に達すると予測されます。耕地を得るために森林が伐採されますが、作られた耕地は砂漠化でどんどん失われていきます。環境破壊を食い止めようとする国際条約も制定されていますが、各国の「豊かになりたい」というエゴの前に、その試みは難航しています。この先の地球はどうなってしまうのでしょうか!?

私は未来ある子どもたちを前に、殊更に恐怖を煽り悲観論ばかりを語りたくはありません。前著『だれにもわかる21世紀環境戦略 経験が生み出した“環知創快”』(日刊工業新聞社)でも述べた通り、人類はこの危機を乗り越える叡智を持っているはずです。それを活かすか殺すかは、我々人類の意識次第です。

新著『EARTH2050』では地球環境の危機的な現状と、それを解決する最新の技術や研究あるいは国際的な枠組みについてお話ししたうえで、それらがうまく機能した場合の楽観シナリオと、失敗した場合の悲観シナリオの双方を提示しています。公害を乗り越えた私たち日本人は今、地球のために何を知り何をすべきか――企業経営者としてエコロジーを専門に携わってきた立場から、どなたにもわかりやすいように解説しようと考え、執筆を始めました。

書籍に込めた想いをお聞かせください

私は「エコ環境」を一生のテーマとして公私ともに活動してきました。その一環が執筆活動です。今回の『EARTH2050』は、『「酸欠地球」への挑戦 いきいき環境白書』(TBSブリタニカ,1997)、『「酸欠地球」の再生 環知創快で生きる』(日本工業新聞社,2005)に続く、13年ぶり3作目の“環境戦略本”となります。地球はどのようなレガシーを保持しているのか、人類は環境危機にどのように対処し得るのかを、最新の知識と情報を踏まえて考察しました。

現在、人類が直面する大きな環境危機は「地球温暖化」「感染症」「人口増加」「食の安全」です。

地球温暖化
「地球温暖化」については皆さんご承知の通りですが、この100年で地球の平均気温は平均1.6度上昇しています。「たかだか1.6度」と思われるかも知れませんが、この変化が地球環境に及ぼす影響は計り知れません。例えば、何万年という気の遠くなるような時間をかけて出来上がった南極・北極の氷河が溶解すれば、太古の菌やウィルスが復活する可能性があります。現代に生きる動植物(もちろん人間も含まれます)に耐性がなければ、伝染病などの感染症が瞬く間に広がる「パンデミック」になりかねません。
猛暑や暖冬、ゲリラ豪雨をはじめとする異常気象は皆さんも体験されているはずです。地球規模では赤道付近での砂漠化の進行、海水面の上昇、水資源の枯渇、暖かい地域の動植物が北上することによる生態系の崩壊が進行しています。

人口増加
「人口増加」については、地球環境の観点から見ると危機になります。国連の推計によると1900年に約16億人だった世界人口は、現在は約73億人とされています。医療の発達などで人が死ななくなったのは喜ばしいことでもあるのですが、一方で資源の奪い合いが起きています。人が生きていくためには水・空気(酸素)・食糧・エネルギーが欠かせません。耕地開拓のために森林が伐採され、エネルギー消費によって地球温暖化が加速し、水資源が枯渇する――地球が人類を養えるキャパシティが限界に達しつつあるのではないでしょうか。

こうした危機に対して、人類はただ手をこまねいているわけではありません。「地球温暖化」に関しては、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)で世界各国から最新の知見が集められていますし、COP(気候変動枠組条約締約国会議)では地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減に向けて取り組んでいくことが合意されています。

食品の安心・安全
「食の安全」も、危機に直面しています。農作物や食品は、今や大量に生産されかつ国境を超えて取引されています。また食品製造の分業化も進んでいます。効率化は進みましたがどこかで問題が発生すると、その悪影響が連鎖して広範囲に及び被害が甚大化する可能性があります。
これに対してはHACCP(危害要因分析重要管理点)という世界基準が確立され広まりつつあります。HACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)は米国で宇宙食の安全性を確保するために開発されたシステムです。日本でも食品安全管理手法のスタンダードになっています。例えば2018年6月にはすべての食品事業者にHACCP導入を義務づける食品衛生法改正案が改正されました。更にグローバルマーケット世界食品安全イニシアチブ(GFSI) の基準が推進されています。2020年東京オリンピックを念頭に日本の外食産業は国際基準への対応が望まれており、エコア株式会社も農林水産省と協力してHACCP指導やGFSI規格の法制化推進に助力しているところです。

海洋汚染
また近年は海洋汚染が私たちの食卓に新たな危険をもたらしています。投棄された家電製品や生活ゴミから漏れ出す汚染物質、ビニールやプラスチック製品には大自然の自浄作用が効きません。亀の鼻に刺さったストローやクジラの内臓から発見される大量の廃プラスチックは、私たち人間のエゴに対する警鐘です。

地球温暖化に対するIPCCやCOPにしても、あるいは食の安全を守るHACCPにしても、それを遂行すれば問題が根本的に解決できるというものではありません。しかし、人類はこれまでも叡智を集結して策を見出し、ギリギリのところで危機を回避してきました。楽観はできませんが、希望はあります。
例えば、AIやIoTの進化によって、突破口が開けるかもしれません。また日本は古の時代から、自然を慈しみ自然と調和することを大切にしてきた伝統文化があります。温故知新――先人たちの知恵の中に世界を救う知恵があるかもしれません。

EARTH2050
『EARTH2050』では、私がとくに心を痛めた東日本大震災・大津波の犠牲についても頁を割いて言及しています。大災害を前にして人間はまったく為す術がないのか!? 最先端の予知研究や危機対応、復興へ向けた力強い取り組みを紹介しています。人の思いは十人十色ですが皆が知恵と力を出し合い協力すれば、どんな困難をも乗り越えられるはずです。新著ではそうした叡智のコンセプトを提言しています。

私たちは今、これまでのエコノミーの成長によって幸福を実現する価値観から、エコロジーの推進によって幸福を維持する価値観へと転換する「パラダイムシフト」の真只中にいるのではないでしょうか?
確かに地球環境は危機ですが、私はことさらに恐怖を煽り立てたくはありません。2050年に向けて人類が叡智を集結して地球を危機から救い、自然環境を守り回復し、持続可能(サスティナブル)な文化や社会を創出する――そんな希望の未来を期待し、今回の書籍を作りました。

座右の一冊

コール・ダニエル教授の著書

ここが魅力

1991年、バブル景気が崩壊しました。地球環境問題に対応しなければならないことは認識されながら、企業も行政もそれどころではなくなってしまいました。当時、独自に河川や沼の調査研究を重ねていた私は、参考文献を求めて都内の大手書店を回りましたが、国内に優れた書籍はありませんでした。そうした中で東京・八重洲のブックセンターでやっと見つけた一冊が、ワシントン大学のコール・ダニエル教授の著書でした。

学術書ではありませんが、衝撃的だったのは前述した「エネルギー問題」「感染症問題」「宇宙開発問題」について横断的かつ総合的な考察がなされていた点です。当時、これらの問題はそれぞれ別々の領域と考えられており、横断的に研究する発想はありませんでした。

しかし、ダニエル教授は「このまま人口増加が続けば化石エネルギーは枯渇する。また温暖化に歯止めがかからなくなるだろう」「温暖化は水不足や食糧不足を引き起こす。また極地の氷が溶ければ太古のウィルスが復活しパンデミックに陥る危険性がある」「その解決策として他の惑星への移住が必要になるだろう」ということには同感でした。それぞれの問題を関連付けて未来を想定していき、しかも、いたずらに恐怖を煽るばかりでなく「このような技術を開発することにより問題が解決できる」という、希望的な未来も示されていました。

私は非常に感銘を受けてすぐにワシントン大学に面談に行き、直接に教えを請いたいと願い出ました。ダニエル教授も自分の著書を読んで日本から一企業の人間がやってきたことを喜んでくださり、快く研究所に招いてくださいました。ダニエル教授との対話で得た気づきの多さ・貴重さは筆舌に尽くしがたいものがあります。こうした各分野の最先端の意見や知識を集め、エコ環境の実務を実体験と合わせ「環知創快」(*)という私なりの論理として世間に伝えていこうと思い、現在の著作や講演といった活動につながっていると言えます。

(*)生態系の中で「共生」を原点として「自然との良好な環境」を創造していくためには、私たちの知識と経験を「環境の叡智」として有効に活用することが重要であるという思いを込めた理念。

人生を変えた出会い

人生の転機

私は大学卒業後、1963年(50年前の東京オリンピックの前年)、国内の化粧品会社に就職しました。高度経済成長の勃興期で需要は旺盛、最初は東北6県の営業販売を担当しましたが、着任初年度で売り上げ倍増、翌年はさらに倍という具合で受注していました。

私は全国津々浦々のデパートや専門店に、販売指導に訪問しました。ある山深い農村で、もんぺにほっかむり姿の御婦人達が、野良仕事の合間に建坪3坪ほどの化粧品店を訪れたときのことでした。私は当地のニーズを考えお手頃な1000円の商品を勧めたのですが、御婦人たちは私の提案する商品には目もくれず、女優やモデルが使うような1万円もする最高級品を買い漁る――そんな時代でした。

自然が豊かな頃は、川辺にトンボやメダカが四季を教えるかのように癒してくれた。しかし、コンクリートの構造物やアスファルトの道路、後楽園球場のような人工芝が増えると、くるりと輪をかく優雅なトンビも返って来ない。日本の伝統である慈しみは消えてしまうのだろうか。

ところがある時、販促活動のために愛媛の道後を一緒に訪れた女優の月丘夢路さんが、腐臭の漂う河川や海に顔を歪めて私に「宮澤さん、このままではいけませんよねぇ」と言ったのです。「誰かがミレニアム(1千年)のジャッジをし、サステナビリティー(継続可能)な地球を企てるしかない。女性を美しくする化粧品関係も良いが、これからは生涯をかけて自然をきれいにする仕事をしよう。それこそ自分が一生をかけて取り組む仕事のはずだ」と決断したのです。このことは、私のその後の人生を左右する出来事となりました。

東京都公害監視委員をしていた当時(1972年頃)、大都市の公害はひどくなるばかりでした。欧米先進国から“エコノミックアニマル”と揶揄されながら邁進した結果、わが国は経済大国になりましたが、そのツケは悲惨なものでした。大気にはスモッグが充満し、川にはヘドロやアオコが漂い、水辺に棲む生物は絶滅に瀕したのです。セスナ機に乗り込んで上空からその状況を目の当たりにした公害監視委員50~60名のメンバー達は、ただただ溜息をつくばかりでした。

しかし、嘆いていてばかりでは何も始まりません。私は自分たちが直面している危機的な現実を一人でも多くの人に知ってもらうことが、第一歩であると考えました。そこで800名の大観衆を集める東京青年会議所(JC)に、俳優の森繁久彌氏や建築家の清家清氏らを招き、環境問題を考えるシンポジウムのコーディネイトを担当しました。「我々日本人の生活スタイルを見直し環境を取り戻していくことが、日本のひいては世界人類が豊かに暮らせるようになる第一歩である」というコンセプトは、多くの人々の共感を呼びました。

そしてこのメッセージこそ、私がこれまでに手がけてきた著書で訴え続けてきたテーマであり、新著『EARTH2050』にも通じるコンセプトです。この思いが未来の「エコ環境イズム」となり、孫や子孫の世代まで受け継がれることを期待してやみません。