学校教育の限界 子どもの心を理解できない教師たち

No,038

北島 惠美子

NO.38 北島惠美子

作品紹介

NO.38 北島惠美子

学校教育の限界 子どもの心を理解できない教師たち

北島 惠美子

「コミュニケーションが苦手」
「集中力の欠如」
「自己中心的」etc・・・
その評価は正しいのか?
教師だけで評価できるのか?
そもそも評価できるほど見ているのか?
現在の管理教育では把握しきれていない。
子ども一人一人と対話する「教育ケア」の実践で、
教師と子どものすれ違いをなくし、潜在力を引き出す最先端の教育論。

現在の学校教育は一斉指導のスタイルである。
教師は一人一人の個性を把握できておらず、子どもの抱える課題も見抜けない。
もはや教師だけに任せられない現状を打開する唯一の解決策、それが「教育ケア」という考え方だ。
「看護」の概念を取り入れ、医療と教育の協働を推進する「教育ケア」は、子どもの異常を発見し、個性を伸ばす。
混迷する学校をも救う画期的な一冊。

プロフィール

NO.38 北島惠美子

北島 惠美子

昭和36年(1961年)生まれ。東京都出身。慶応義塾大学医学部附属厚生女子学院卒。正看護師籍第482310号。慶応義塾大学医学部付属病院勤務を経て、文教大学教育学部初等教育課程数学専修を卒業し、小学校教諭・中学校数学教諭の免許を取得。その後、浦和ルーテル学院初等部専任教諭、星美学園小学校専任教諭、東京都立小・中学校講師として勤務しながら、教育現場に看護ケアを活かす全人的『教育ケア』を開発。日本社会事業大学社会福祉士養成課程(通信教育部)も卒業している。

座右の銘

Creator is within us
生きとし生けるものは、すべて「potential」を持っているということが、「Creator is within us」の考えです。potentialは日本語では潜在的な能力などと訳されますが、私は「良心」に近いものではないかと思っています。すべての人の心に良心はあるのです。私は子どもたちと接するときには、このpotentialに積極的に働きかけるような言葉を使い、お互いに呼応し合い、子どもの潜在性を引き出すこと心掛けています。
子どもたちが自分の「potential」に気付き、本領を発揮できるようになるために大切なのが、「経験」と「言葉」です。私は子どもたちにたくさんの経験と言葉を持たせ、自分自身で考え、学び、習得できるようになってもらいたいと思っています。例えば、数学と理科は思考を形成させ、国語科は語感を身に付けさせ、社会科は思考したことを発揮させる場だと考えています。自分の内側から生まれた言葉を駆使できるようになることが、子どもたちを育てる上で何より重要です。

書籍に込めた想い

いまの小学校における教育方針は、教師が大勢の児童を担当することを前提とした一斉指導のスタイルがベースとなっています。これは児童一人ひとりが抱える事情や個性に配慮するには、残念ながら不十分であると言わざるを得ません。私は自分が実際に体験した事柄や、教育現場からの声を参考にしながら、真に児童のためになる指導・教育のノウハウを長年模索してきました。本書には、その成果といえる教育現場に医療や看護の理念を活かす『教育ケア』の概念と、その実践方法が書かれています。
教育ケアは、小学校で学ぶ大多数の児童はもちろん、病気等で長期入院を余儀なくされている児童や、発達障害等の先天的な問題を抱える児童に対しても有効な方法であると確信しています。
また、医療看護界においても発達障害の研究もしくは社会福祉に関しては、まだまだ未定に近い状況にあります。私は発達障害を持つ児童の問題解決は、児童周辺の人間関係を含めた環境づくりによって解決していくことができると考えています。
そうした考えを文章として残し、問題解決のためのノウハウを世の中に伝えていくために、私は本書を執筆するという選択をしました。この選択は、私が経験した「文章の力によって助けられる」という過去の経験が大きく影響しています。
私の過去の経験というのは、6年ほど前に大病で手術を受けるという体験でした。その際に入院した病院の看護マニュアルの中に、私が約30年前に発表した看護論文の内容が含まれていたのです。私は自分が考案して論文に書いた「手術中に施した看護ケアの記録シートの作成法」を実践する病院のおかげで、自分自身が助けられるという経験をしたことになります。
この記録シートは、患者さんにとって大きなストレス事象である手術を経て回復していく過程で、手術室ナースから病棟ナースに渡って医療情報を伝達する役目を果たしています。情報を正しく伝えることができるため、急変しやすい時期の患者さんに対しても個別的看護ケアの質やスピードを変えることなく、安定的に施すことができるようになります。これはいまでは医療界に広く普及している方法ですが、自分が直接恩恵を受けたことによって、私は有益な情報を文章で残す大切さを改めて実感しました。
私は本書が悩める教育者や保護者、医療関係者を助け、さまざまな個性を持つ児童たちの健やかな成長を促す指針となることを願っています。

座右の一冊

聖書(The Holy Bible)

旧約聖書の創世記には「光あれ(Let there be light)」という神の言葉と共に、天地創造の成り立ちが書かれています。ガリレオ・ガリレイをはじめとする天文学の研究や、アインシュタインらによる光の探求、ニュートン、ファラデーなど多くの科学者たちの遺した業績の根拠となったのが、この聖書の冒頭の言葉「光あれ」だといわれています。私の亡き夫も、先人達と同じ動機で『光』を追い求め、生涯、電磁波を研究し、それを高校の数学力で理解するための著作を遺しました。私が数学・物理の本を楽しく読めるのも、この基盤があるからです。
キリスト教哲学は科学の発展を時に阻害し、時に発展させてきたという歴史を有していますが、その本質は人類の救済にあります。私は児童教育という分野を発展させるための力として常に『光』を追い求め、聖書の言葉を心の糧とすることを意識しています。

ヒストリー

HISTORY 01 私が「教育ケア」を提唱するようになったきっかけ

私が「教育ケア」を提唱するようになったきっかけ

私は2歳の頃、父に文字と漢字の意味について教えてもらったことで「教えてくれる人」が大好きになり、4歳から通ったカトリック系の保育園で「正義」や普遍の「本当」があることを知りました。その体験は、私が人生を生きる上での拠り所となっています。小・中・高校でも適切に導いてくれる先生に恵まれた私は、大学の医学部で学び、正看護師の資格を取得します。 その後、大学の教育学部に入り直して小学校教諭・中学校数学教諭免許を取得し、小学校で教諭として働き始めました。 そして私は、最初に赴任した小学校で「学校」という現場の大切さに気付きます。学校は子どもたちが毎朝決まった時刻に登校し、規則正しく一日を過ごせる場であり、安定的に暮らしを保障してくれる素晴らしい成長生活の場です。毎日通うということは、継続的に子どもたちの様子を観察でき、何らかの異変も見つけやすくなることにつながります。小学校で子どもたちと接するうちに、私は学校教育の中に看護の理念を活かす「人間対人間の教育ケア」というアイディアを抱き、教室の中で実践するようになっていったのです。これはその後、教育現場に多職種連携支援を内包させる「包括的教育ケア」の考え方として発展していきます。 ちなみに義務教育学校における「家族支援」の発想は、私が個別対応を重んじる私立小学校出身であることから生まれたと思っています。

HISTORY 02 発達障害をもつ児童に配慮する教育

発達障害をもつ児童に配慮する教育

やがて私は、特別な配慮を要する児童に対する「包括的教育ケア」と、教育現場での多職種連携支援の具体的な進め方について考えるようになっていきます。 発達障害に伴う「生きづらさ」に苦しむ児童は、周囲の無理解によって学習集団内でトラブルを起こす場合があります。ところが現状の学校教育の目標に掲げられる「人格陶冶」や「社会性の涵養」などは、そうした児童にとって適したものにはなっていません。学校教育の内に医療的見識を採り入れ、WHOの示している健康の理念に基づきながら、本当の意味で各人に相応しい教育的アプローチを構成する必要があるのです。そのためには、児童の担任一人だけが奮闘するのではなく、地域を基盤とした多職種同士が連携するチーム支援が重要となります。 多くの教師たちは、発達障害が疑われる児童・生徒に対しても、学校教育法に依拠する方法だけで指導しようとします。もちろん、それですべて対応できるわけはなく、時として逆効果になる場面も出てきます。そこで私は、教育現場における未診断の発達障害児をめぐる実態を明かし、児童教育に心身のケアを取り入れる意義を明言することで、現場の実情を認知してもらう努力をするようになります。さらにケア方法として、看護診断を活かした個々の児童・生徒に合わせた「教育ケア計画シート」の作成も提案しました。この一連の活動は、教育現場の教師たちや児童のご家族に喜ばれるものとなっていきます。

HISTORY 03 「コミュニティースクール」と「GROWING UP PROJ

「コミュニティースクール」と「GROWING UP PROJECT」構想

その後、私は児童の全人的ケアを目指す取り組みとして「コミュニティースクール」の考え方を広めることを決意します。「コミュニティースクール」とは、教諭以外の地域社会資源を学校に集結させ、学校内の課題をコミュニティーの力によって解決することを目指す考え方です。こうした取り組みを実現させるためには、協力者が「協働」という基盤理念を理解しておく必要があるのですが、現実的にはなかなか難しいものがあり、周知徹底は今後の課題といえます。 「コミュニティースクール」による「全人的ケア」達成のためには、参加メンバーの中に学校地区担当保健師を入れる必要があります。さらに学校内ケアリーダー業務も果たせる養護教諭にも参加してもらい、リーダーとして働いてもらうことが理想です。 医療現場においては、小児病棟のプレイルームをスタディールームに置き換え、院内スタッフとして「教育ケア教諭」を配置し、児童が退院して在宅療養になって以降の教育環境にも配慮するべきだと考えています。そうすることにより、自然と児童が在籍する学校担任教諭との連携が取れるようになり、医療と教育の「協働」が成り立つようになります。そして「協働」における共有認識を明らかにするために、「教育アセスメント」の方法も伝授することも視野に入れています。 また、小児病棟や在宅療養中の小児をサポートする「GROWING UP PROJECT」という企画も考えています。これは学校とは異なる、療養生活に合わせた教育の機会を提供したいという思いから生まれた企画で、全国の小児病棟や小児訪問看護先で出会う母子のためのものです。 具体的には保育から小・中一貫の教育を実施するモデルルームとなる「教育ケアステーション」を創り、さらに「『教育ケア』教諭養成カリキュラム」も設け、全国の小児病棟に潜在する療養児のニーズに合った教育を授けることができるプロ教諭を養成し、派遣したいと考えています。 今後はいくつかの小児病院前などにアンテナルームを設立し、教育現場・医療現場の窮迫する需要に応えていきたいと願っています。

今後の活動方針や目標

今後の活動方針や目標

今後の目標は、あらゆる子どものニーズに応え、もれなく救うことを目的とした『ソフィア義塾』という活動の推進です。これは現在の公的支援に不足している「子どもへの教育的配慮」を継続的に行うことを目指しています。具体的には、教育ケアの拠点となる「教育ケアステーション」を設立して、さらに各地域の小児病院内へアンテナステーションを設置していく活動を広めたいと考えています。
病院内に設置されるアンテナステーションのイメージは、支援が必要な子どもたちに対して看護ケアを行いつつ、教育的支援も行うというものです。アンテナステーションは入院している子どもだけでなく、在宅療養中の子どもへのケアも視野に入れています。私は子どもたちに「学び」を促すことで、子ども自身が持つポテンシャルを発揮する機会が増えていくと考えています。
また、一連の活動の一環として本の執筆も引き続き考えていますので、次作では子育てを通じて得た知見を活かして、子どもの「いのち」の豊穣を愛でることの素晴らしさを伝えられればと思っています。