動きの分類
次に動きの分類であるが、何を基準とするかによっていろいろな分類方法がある。
はじめに「反射」という動きについてだが、これは、脊髄反射など、大脳皮質を経由しないで起きる反応性の動きを含む。たとえば膝蓋腱反射は、膝の下をハンマーでたたくと、下腿部が前にポンと上がる、膝関節が伸展する反射である。パラシュート反射は、階段を下りていて、バランスをくずすとパラシュートのように両手を左右にひろげる反応性の動きである。
一般的な動きの分類として、まず力源による分類で、「自動運動」、「他動運動」がある。1「自動運動」というのは、自分で動くことをいい、自分で手足や体を動かす場合である。「他動運動」というのは、誰かに動かされて動くもので、誰かが自分の手を持って動かせば、「他動運動」となる。ここで、「自動運動」といった場合、後で述べる、注意や意識をあまり必要としない、自動的な、自動化された運動という意味もあるので、混同しないようにする必要がある。
随意運動と不随意運動
次に動かそうとする意図があるかないかによって、「随意運動」と「不随意運動」がある。ふだん日常的に行われている動きは「随意運動」である。これは、動こうという自分の意志、意図にもとづいて行われる随意的な動きということである。
「不随意運動」というのは、いわば病的な状態での動きであり、自分の意志に反して体が勝手に動いてしまうようなことをいう。
「随意運動」について、動きを開始するタイミングというのを考えた場合、まず動作者によってその動きが完全に自由で自発的なタイミングで開始される場合と、何らかの外的な刺激によって動きが開始される場合とがある。自発的なタイミングというのは、そのタイミングが内部情報つまり記憶にもとづいて行われるものを意味するが、かりに動作を開始するタイミングが自由で自発的であったとしても、そのタイミングは動作者によっては心理的にもいろいろ考えられ、何らかの刺激の影響があって、記憶を通じて自発的に開始することもあるだろう。何らかの外部刺激によって動きが誘発され、発現するという場合、動きの内容がその外部刺激に関連していることが多いように思われる。
またあとで述べるが、自由で自発的な動きと、外部刺激によって誘発される動きとでは、脳表で記録される電位変化において違いがあり、自発的な動きでは運動開始の前に運動準備電位という電位が測定されるが、外部刺激による動きではその電位が測定されない。
外部刺激で誘発される動きの中で、反射的な動き(反応性の動き)という素早い動きがある。これには危険の回避という意味があると考えられる。たとえば急にすぐ近くで爆発音のような大きな音がしたとすると、危険性が察知され、そこから遠ざかろうとして、反射的に体が音とは反対の方向に動く、場合により反対側に倒れこむなどの動きが反応性に現れる場合がある。部屋でイスに座っていて、顔のすぐ近くにあるガラス窓を急に外からドンと誰かに思いきりたたかれると、おどろいて反射的に窓とは反対側に倒れそうになる。また無防備な状態で誰かに急に頭をたたかれると、とっさに手を挙げて相手をさえぎろうとし、顔を反対側に向けるなどもある。これらの素早い反応性の(反射的ともいえる)動きは、脊髄反射とはちがい、大脳皮質を経由した反応性の動きである。反応に関係した大脳皮質の領域が少ないほど、反応にかかる時間は短いとも考えられる。顔を何かで刺激され、頚をその刺激から遠ざかるように回転しつつ上肢をその方向に突き出すという動きについては後述する。熱いお湯の入った茶碗にさわって、急に手を引っ込める素早い動きも、大脳皮質を経由する反応性の動きといわれる。
半随意運動
またじっと座っていて、肩が張ったときに肩を動かす、皮膚のかゆいところを掻く、鼻をすするなどの内的な欲求によって行われる動きは、「半随意運動」といわれる。これはほとんど自動的にというか、無意識的に行われているが、随意的に動きをおさえることができる。
自動運動
「自動運動」に関して、自分で動かすという意味のものではなく、動きに意識を必要としない、あまり意識しなくても自動的に動けるという意味での「自動運動」がある。これには咀嚼や嚥下のような動きがあり、また歩行は、歩きはじめは意識したとしても、歩いているうちに、次第に無意識的、自動的となる。これには歩行中枢が関与しているといわれる。一般には「動きの自動化」という現象がある。
「動きの自動化」には意識(または注意)の容量の配分が関係する可能性がある。つまり他のことに意識(または注意)が向いていて、そちらに意識の容量がたくさんとられていると、今行っている動きに対しての注意の配分が少なくなり、動きが無意識となると考えられる。ただこの場合、真に100パーセント無意識なのか、たとえば数パーセント程度は意識されている(?)のか、動きが一瞬意識されたとしてもすぐ他の内容に移行するということなのか、意識内容というのは複雑で多彩で時々刻々と変化し、動きとの関係も解釈は難しい。
筋肉と運動神経
筋肉には、骨格筋、平滑筋、心筋があるが、体の動きに関係しているのは骨格筋である。
骨格筋は多数の筋線維(骨格筋細胞のこと)が数十本集まって束になり、筋周膜という膜で囲まれて筋束(筋線維束)を形成し、さらにこの筋束が集まって一つの筋を形成している。この筋束の束を包んでいる膜を筋上膜(筋膜)という。また一本の筋線維は、多数の筋原線維からなっている(図1)。

筋原線維は、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントという2種類の筋フィラメントが規則的に配列してできている。ミオシン分子には頭部といわれる構造があって、この頭部が首振り運動のように動くことでアクチンが引き込まれ、筋線維の収縮が生じると考えられていたが、新しい知見では首振り運動ではなく、ミオシンフィラメントの頭部の部位がアクチンフィラメントに沿って前後にブラウン運動(熱による運動)していて、ある距離前方に進んだ時点でアクチンと強く結合しブラウン運動が止まり、これに伴い次にアクチンフィラメントを後ろ向きに引っ張る力が発生し、アクチンフィラメントがミオシンフィラメントに引き込まれ、滑り込むことによって筋線維の収縮が生じると考えられている2。
筋線維の種類は、収縮が遅い遅筋線維と収縮が速い速筋線維に分けられる。大部分の筋肉では遅筋線維と速筋線維は約50パーセントの比率で分布している。
骨格筋を収縮させるには、中枢神経から動きの指令が脊髄前角の運動ニューロンに伝わり、そこから筋線維に伸びている運動神経を通って筋線維(筋細胞)に向かうが、運動神経と筋線維との接続部を神経筋接合部といって、そこに活動電位が到達するとアセチルコリンが放出され、筋線維膜に活動電位が発生し、筋線維の短縮が起き、筋肉の収縮が生じる。ちなみに一本の運動神経は、骨格筋に到達する直前で分岐し、複数の筋線維に到達する。
一個の運動神経と、それが支配する(活動電位を与える)筋線維(筋細胞)を運動単位といい、一個の運動神経に支配されている筋線維の数を神経支配比という。ある一つの筋肉を収縮させるための脊髄前角細胞の運動神経の集団を筋単位という。通常、筋単位としては、数百の運動神経が所属している。そのうちの一個の運動神経が支配する筋線維の数、つまり神経支配比は、数本から数百、千数百本というように、その数にかなりの幅がある。一般的な傾向として、細い小さい筋の場合は、一個の運動神経が支配する筋線維の数が数本というように少なく、細かい精細な運動に関与し、太く大きい筋の場合は、一個の運動神経が支配する筋線維の数は数百とか千数百本のように多く、より高い張力が必要な粗大な運動に関与する。
脳の領域と機能
脳の領域の大きな区分として、前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉がある(図2)。

後頭葉には視覚の中枢である視覚野がある。目(網膜)から入った視覚情報は、まず後頭葉の一次視覚野に入る。その後、対象物の視覚情報のうち、それがどこにあるのかという対象物の位置や方向、動きなどの情報は、背側経路を通って頭頂葉に向かって処理される。また、その対象物が何かという、物体の形態や色などの情報は腹側経路を通って側頭葉に送られ、情報処理される。そしてこれらの情報が統合されることによって、対象物の形態、色、位置、動きなどが認識されることとなる。
頭頂葉は、基本的に感覚の中枢である。前方に第一次感覚野(体性感覚野)、その後方に頭頂連合野がある。頭頂連合野は頭頂間溝によって上頭頂小葉、下頭頂小葉に分けられる。
体性感覚野へ入る感覚としては、まず表在感覚(皮膚の感覚のことで、触覚、圧覚、温覚、冷覚、痛覚など)がある。触覚や圧覚は皮膚にある機械受容器が刺激されて感知される。機械という用語は、受容体が押されたり(圧迫されたり)、引っ張られたり、こすられたりという機械的な刺激に対して反応するという意味で使われる。
次に固有感覚(深部感覚ともいう)がある。固有感覚(深部感覚)には、位置感覚、運動感覚、重量感覚がある。位置感覚とは、四肢や体の各部位の位置や、関節角度などに関する感覚のことで、今自分はこのような体勢、肢位をとっているという、体の全体または各部の位置関係に対する感覚のことをいう。運動感覚とは、関節運動(個々の関節の動きはあまり意識されていないことが多いが、体の動きというのは関節の動きが合わさって生じているのである)の方向や速度の変化に対する感覚、つまり自分は今こう動いているという、関節や体の各部の動きに対する感覚のことをいう。重量感覚とは、力や重さの感覚、努力感覚(重いものを持ち上げようとして力を加えているという感覚)のこととなる。ちなみにこれらの固有感覚(深部感覚)には、顕在的に意識できる感覚(意識型深部感覚)と、顕在的に意識できない感覚(非意識型深部感覚)とがある。意識されるかどうかということについては、意識される内容には容量があるということも関係しているかもしれない。
私たちは日常的に動きのことばかり考えているわけではない。わが身に起こるいろいろなことを考え、そこから導いた内容が意識されている。もし、意識としての容量に余裕があれば、深部感覚を意識することができる状態であっても、他のことがたくさん意識にのぼるだろうし、逆に容量に余裕がなければ、深部感覚が意識されないことになるだろう。また、これらの固有感覚(深部感覚)は、筋、腱、関節に存在する深部受容器によって刺激が感知されて生じるもので、それぞれ、筋紡錘、ゴルジ腱器官、関節受容器という。筋紡錘は骨格筋の内部の錘内筋線維にあり、(筋線維といえば)ふつうは運動に関係した筋肉のことで、これを錘外筋といい、筋紡錘が存在するのは錘内筋といって区別されている。筋紡錘は、筋が引き伸ばされると反応し、筋肉の伸展の状態、引き伸ばされる速度などを感知する。腱器官は腱に存在し、やはり筋によって引っ張られると伸展の張力を感知する。関節受容器は関節の角度などを感知する。
頭頂連合野のうち、上頭頂小葉には、体性感覚野からの情報と、視覚野からの視覚情報が入る。体性感覚(皮膚、関節、筋などからの感覚)情報に基づいて、自己の身体の位置や運動に関する情報を知覚している。これは、身体図式や身体イメージの形成に関係する。また視覚野からは視覚対象の方向や位置の視覚情報が入り、これによって視覚対象と自己の身体との空間的な関係性も認識される。たとえば、見えている机の上の書類を手に取ろうとする場合、自分の身体である手と、対象物である書類との位置関係(距離や方向など)が認識されているので(手の位置は体性感覚情報からだけではなく、見えているので視覚情報としても認識できている)、どのように書類に手を伸ばせばいいのかという手の運動軌道を決定することができる。
このように対象に手を伸ばす行為をリーチング(到達運動)という。このリーチング行為は、何かに手を伸ばして対象を把持する行為につながり、よく行われる基本的な動きである。上頭頂小葉は、体性感覚情報と視覚情報とを統合して、このリーチング動作を可能にしている。もちろん上頭頂小葉は感覚野であって、実際に動作を行うには運動野との連携、とくにリーチングに関しては運動前野との連携が必要である。ちなみに対象物と自己の身体との位置関係や方向などを認識し、リーチングなどの動作にその情報を使う場合、外部の対象物を原点とする空間的な座標軸と、自己の身体を基準とする座標軸とが想定され、それらの相互関係に基づいてリーチング動作などが実行されると考えられている。対象物は外の空間に存在していて、上頭頂小葉は視覚を介して、対象物を原点とする座標軸の空間定位に関係し、対象物が空間内のどこに位置しているのかということを定位するはたらきと、体性感覚を介して自己の身体を基準とする座標軸の空間定位に関係していて、自己の身体や手が存在する自己を中心とした空間内での内部座標を使った位置の情報とを、相互に認識、変換することによって、リーチング動作(物体への到達)を可能にしているということである。空間内における座標軸の認識というのは、左半側空間無視(左側の空間情報を利用できない)という現象で理解できる。これは座標軸を無意識に認識していることを表しているのだろう。
たとえば花瓶の花を見て、それを模写する課題において、絵の全体像を認識はしているのに、それを書く場合には右半分しか模写できないということは、花瓶のある空間では左側も右側も認識できているのに、書くという行為のためにそれを身体中心座標に変換した際には、その左側の情報を動きに利用できなくなるという現象と思われ、外部座標と内部座標の認識、外部座標から内部座標への変換という過程が無意識に行われていることを反映しているものだと思う。
下頭頂小葉は、角回、縁上回を含む。ここは、体性感覚、視覚、聴覚という多感覚を統合する最高中枢であり、これらの感覚の情報変換や、言語や意味の概念化がなされているのだろう。多感覚の統合とは、体性感覚、視覚、聴覚の情報は、それぞれ違う感覚受容器から入り、感知されるが、実際にはそれらの内容は一つの事象であり、それぞれの感覚内容が独立して存在しているわけではないので、これらの感覚が一つに統合されて認識される必要があり、頭頂連合野がこの多感覚統合を行っている中枢という意味となる。また前頭葉のブローカ野(言語中枢)とも連携していて、多感覚統合された内容に対してそれを言語化(いわば概念化、イメージ化ともいえる)する機能もあると考えられる。これは、外部世界(物体)と内部世界(身体)との関係性に対する認識、理解にも関係している。また、動作や行為においては、自分の動きと、それによって実際に引き起こされた感覚とが、一致していなければならない(感覚運動マッチング)。これに関しても下頭頂小葉が機能していると考えられる3。また下頭頂小葉は、道具使用、パントマイム、顔の表情の認識、着衣動作などにも関係しているといわれる。また下頭頂小葉を直接電気刺激すると、動こうとする欲求(行動の主体感)が生じることがわかっている4。
前頭葉には、前頭前野、一次運動野、前補足運動野、補足運動野、運動前野がある。
前頭前野は思考の中枢であり、ワーキングメモリー(作動記憶)機能もある。さまざまな思考(評価、比較、抽象化、概念の形成、階層化、分類、ラベリングなど)がなされ、動作や行為に関しては、行動計画や行動選択などの意思決定にも関与する。ちなみに、何らかの内容を思い出し(想起)、それについて何らかの内容を考えれば、定義的にワーキングメモリーを使っていることになる。思考することにおいては、多くの場合にワーキングメモリーが使われると思われる。ワーキングメモリー(作動記憶)という用語は、「記憶、メモリー」という意味で分類されているが、考える対象を意識の中で把持しながら、それに対していろいろと思考していくということで、思考システムの一つともとらえられるだろう。
参考文献
- 1)『人間の運動学 ―ヒューマン・キネシオロジー』
宮本省三 (著)、 八坂一彦 (著)、 平谷尚大 (著)、 田渕充勇 (著)、 園田義顕 (著)
協同医書出版社 2016年
↩︎ - 2)CLINICAL NEUROSCIENCE Vol.41 2023年02月号
「骨格筋のすべて ―メカニズムからサルコペニアまで」
中外医学社
↩︎ - 3)「頭頂連合野と運動前野はなにをしているのか? ―その機能的役割について―」
丹治 順
理学療法学/2013年40巻8号(p.641-648)
↩︎ - 4)『連合野ハンドブック 完全版:神経科学×神経心理学で理解する大脳機能局在』
河村満(編集)
医学書院 2021年
↩︎
| 動きと意識 【全7回】 | 公開日 |
|---|---|
| (その1)Ⅰ 動きと意識のダイナミクス | 2025年6月30日 |
| (その2)Ⅰ 動きと意識のダイナミクス | 2025年7月30日 |
| (その3)Ⅰ 動きと意識のダイナミクス | 2025年8月29日 |
| (その4)Ⅰ 動きと意識のダイナミクス | 2025年9月30日 |
| (その5)Ⅱ 脳と運動の相互作用 | 2025年10月31日 |
| (その6)Ⅱ 脳と運動の相互作用 | 2025年11月30日 |



