表現者の肖像 佐倉海桜
HOME > 佐倉海桜 > 出会い

人生を変えた出会い

 人が生まれて死ぬまでの生涯を人生と申しますが、その一生の中で自身の概念やライフスタイルを変えるほどの出会いは、如何ともし難い別れが伴うものかもしれません。
 私の心に深く刻まれた出会いは、自身の母です。私は、母の娘として生まれ育てられ、母が病に罹り亡くなるまでの数年間を共に過ごしました。

 母は、病魔に侵されながらも家族のために料理を作るのが好きな人でした。自分で歩けるうちは、毎日の献立を考え買い物に出掛けました。

 日々、母は料理ができることに感謝し食事を作り、皆で一緒にご飯を食べました。終われば、森羅万象に心から感謝。そして、合掌。母は、日常のありふれて変哲もない食事の有り難さと、人の心のあたたかさを身を以て教えてくれたような気がいたします。

 病気の我が身を嘆くより、誰かのために料理を作る母の後ろ姿は、桜が咲き誇り散るがごとく、凜とした古来の日本女性を彷彿とさせました。

 私は母と呼ぶ人の体内に宿り、この世に生を享けました。そして、母という一人の女性と出会い、永訣の朝に最愛の母に別れを告げました。

 すべては、碧空が広がるあの朝から始まったのかもしれません。

幻冬舎ルネッサンス

© 2017 GENTOSHA RENAISSANCE SHINSHA,inc.