WEB小説コンテスト「イチオシ!」

エントリーナンバー1四十円

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著者名:中條 てい

――そんなに見えないものだろうか。

 俺は道に下りていろんな方向から眺めすかしてみた。確かにここで立ち止まったなら「おやっ」と目につく好位置だが、素通りすればゴミくらいにしか見えない。いっそ目立つように並べてやるか? いや、それだと意図的すぎて裏を感じる。海外旅行をよくする女房の話だと、あっちじゃ置いたものが五分も経たず消えるらしいが、これはもう何日ここにあるだろうか。十円玉じゃなく五百円硬貨ならとっくに持ち去られているのかもな、と俺は肩をすくめ家に入った。

 翌日は朝から雨が降っていた。資源ゴミの日だったが俺一人だとどれほどもなく、わざわざ傘をさしてまで出しにいくこともないなと、サボった。女房がいたらこうもいかないが。

 女房は仕事の性質上ふだんは連休も取らないが、一つのプロジェクトが終わったところでまとまった休みがもらえる。一週間は短い方で、たいていは十日から二週間ほど、今回は半年がかりの仕事が上がったというので、どかんとまとめて三週間も取りやがった。

旅行は俺も嫌いじゃないし、自由業だからその気になればいつでも付き合えるけれど、そもそも好みがまるでちがうのだ。俺はゆっくり温泉につかるような旅がしてみたいのに、女房の方は体験派で、今ごろは粋狂にもホタテ貝の殻を首からぶら下げて歩いているというのだから同行はご免被りたい。あっちはあっちで旅仲間もいるようだし、休暇を存分に楽しめばいい。鬼の居ぬ間に、と呼ぶには女房の存在はまだまだ俺にとってキュートだけれど、こっちはこっちでずぼらを満喫しているのだ。

 配管工事は毎日やってきて、ほんの少しいじくって帰っていく。全長百二、三十メートルほどの路地の配管をすっかり取り替えるとなると、いずれは通行を遮断してごっそり掘り返すようだが、今のところ作業はおとなしいものだ。それでも無駄に出入りすると、その度に作業員の仕事を中断させてしまうので、俺も努めて家に籠もるようにしている。冷凍庫には女房が作っていったおかずが詰まっているし、棚にもなんだかんだと買い置きがあるから籠城なら任せておけ、だ。

 それから三日ぶりに家を出た。友人の革細工職人が喫茶店で展示会をするから来いというので覗きにいった。会場が喫茶店というのがよいのかして思いのほか盛況だった。奴の作品を買うとコーヒー券が出るというので小銭入れを買ったが、考えてみればその金でコーヒーくらい何十杯も飲めるのだ。まあいいや、これもご祝儀だ。