純文学小説コンテスト

大賞作品
電子書籍化

大賞

『邪眼』菊野啓:著

【大賞作品 ルネッサンスより電子書籍化】

アマゾンで販売中

『邪眼』
(菊野啓・著)


■あらすじ
暴力の化身のような怪物的な父、伊三夫とともに裏の養豚業を営む青年、琢也。獣の血にまみれて生きる彼らは、あるとき裕福な母娘を浚い、監禁し始める。毎日のように伊三夫に犯され弱っていく母親。一方琢也は幼い娘の滴とささやかな交流をしていた。琢也は慢性的な歯痛を抱えていたが、滴と交流していると痛みが弱まることに気付く。

母親が死に、滴に手を出そうとする伊三夫。琢也は滴を守ろうとするが、あえなく殴り殺される。命を失った琢也は、浄土の世界にて彷徨し、再び現世に舞い戻る。滴と婚礼を挙げようとする伊三夫だったが、襲撃者との相打ちにより命を失う。琢也は唯一の肉親の死に涙を流した後、死体を解体し、豚の餌とする。
琢也の浄土往還以降は、現実離れした異常な出来事が続く。
滴の母親の復活、母親の2回目の死、琢也と伊三夫の融合、豚との交接など、ソドムの市のごとき地獄が極まった時、大雨による土石流がすべてを飲み込んだ。泥の中から唯一はい出たのは、琢也と、一匹の子豚。泥を洗い流す雨の中、一人と一匹はゆっくりと歩き出す。

大賞作品『邪眼』
編集者講評

中上健次や村上龍を彷彿とさせるような、土臭く、野生的な激しい衝動を伴った作品です。
湿気に満ちたグロテスクな文体が、バイオレンスで生々しいストーリーに実に良くマッチしています。また、方言を使うことにより、物語のリアリティがぐんと上がっています。

被差別部落出身を思わせる主人公たちは社会から疎外されていますが、彼ら自身も社会を擲ち、傍若無人に振舞っています。しかし、一応彼らでさえもギリギリのところで社会と繋がっていましたが、核爆弾を思わせる被害によりポストアポカリプス的世界に突入してからは、ギリギリで繋がっていた社会からも完全に断絶することになりました。
本作は、社会で生きるうえで人々が纏う虚飾を暴力的に引き剥がし、薄皮一枚も残さず丸裸にすることで、人間という生き物の真の姿に迫った作品といえるでしょう。

PAGE TOP ▲