第二回WEBコンテスト「イチオシ!」エッセイ

幻冬舎グループが推薦

今すぐ読みたい! 実力派エッセイストが大集合

イチオシWEBエッセイとは?

これまでに幻冬舎ルネッサンス新社にご応募いただいた作品の中から、優秀作品を選出し紹介する期間限定の特設ページです。編集部が厳選したイチオシ作品を無料で全文読むことができます。熱意と才能、そして可能性に満ちた作品をどうぞご覧ください。 (本ページは2017年4月末日まで掲載します)

第一回 小説部門はこちら

エッセイ部門1のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて石川 雅之

そのとき祖父は臨終の床にあった。非常勤の講師ながら私が教師として教壇に立つようになった三十年前の秋のことである。

在学中だった大学院はまだ夏の休暇中だった。講師として、その前年の春から勤め始めた高校へは、週二日、教えに行くだけであったから、ごく自然に、私が日常の遣り繰りにも追われる母に替わって祖父を看ることが多くなっていた。

祖父は満で八十九。数え九十の享年なら天寿と言っていい。それでも、長く住まいを同じくし、二週間つづいている危篤の枕許で母や叔母たちを手伝って水を飲ませたり、下の世話をしたりしていれば、悲しみに近似した様々な思いの去来しないはずがない。ゆっくりと死へと向かう祖父をじっと凝視めながら、私はただ内向するばかりだった。

自宅でそうした日々を重ねるなか、私は、週二回の高校で斎藤茂吉の「死にたまふ母」の授業を進めていた。周知の通り、それは茂吉の処女歌集『赤光』所収の、生母へと向けられた挽歌群である。

のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり

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編集者講評

一文目から引き込まれる作品でした。どれほど感情的な文が続くのかと一瞬身構えましたが、一段落目はどこか冷静に、客観的な描写が続いており、筆者の「内向する」気持ちを知りたくなりました。

文章中で、読者に最もインパクトを与えるのは次の三文でしょう。

  • ある作品を深く受け止めて、作者の感動を追体験しようとするとき、そこに自分自身のある時点の姿が重なり合ってしまうことがある。
  • それは何も読むことばかりでなく、あらゆるものの享受に備わる働きであるだろう。
  • ある作品に触れ、自分自身の過去や現在に思いを馳せることは、読むことの、聴くことの、鑑ることの蜜の味。

以上の文章は、まさに読者を見事に「自分自身のある時点の姿が重なり合ってしまう」「自分自身の過去や現在に思いを馳せる」状態にさせることに成功しています。おそらく本作の冒頭から、読者自身、家族や近しい者の死と重ね合わせて読んでいたはずです。

さらに大変興味深いのは、教師としての筆者の葛藤でした。教壇に立つ教師は、生徒からは完璧な存在に見えます。しかし、文中に書き込まれている葛藤がその胸のうちで行われていることなど、予想だにしないものです。

死の淵にある父と、生の象徴ともいえるうら若き高校生との対比が、その葛藤をよりリアルなものに昇華している…。本作はそんな印象的な作品でした。

編集長 矢口 仁

エッセイ部門2十八鳴浜 鷗

三月十一日の大津波以降、久しぶりの帰島だった。自宅でありながら、たまにしか来ないと、他人の家を訪れているようで、妙に落ち着かない。義母がさっそく、昼飯をつくり始めた。

まだ復旧工事半ばの港周辺や海岸沿いとは違い、家から見える景色は少しも変わっていなかった。柄にもなく庭を散策する。家の周囲は松や椛、それに名も知らない雑木が密生している。自然に囲まれていて、何もわざわざ庭など造ることもないだろうに、生前の父が、義母と二人で我流に木を植えたり花をつくったりと、気儘に拵えた庭だった。今は義母一人になって、手が廻らなくなり、庭のあちこちに雑草が生えている。気にすれば一つ一つが気になるが、しかし、見ようによっては手入れもなく、身勝手に育った植物たちの奔放さにも風情はあった。十月末なのに陽射しが異様に温かい。縁側に腰を降ろすと、海は見えないが微かに聴こえてくる潮騒の音に耳を傾けながら、眼を細めて煙草を咥えた。木々や花々には疎く、名前も知らないものが多いが、百日紅など数種類は判別出来た。

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編集者講評

筆者独特の比喩が魅力的な作品でした。

筆者が震災以降、久しぶりに自宅を訪れ、庭を散策しながら「あの日の光景」に思いを馳せるという一見シンプルな作品ですが、筆者独特の比喩が作品を奥深く味付けしています。

筆者は「あの日の光景」に思いをめぐらせ、亡くなった恩師との思い出を振り返る…。 恩師は既に亡くなっており、儚い時間の経過を感じさせられます。

対して印象的なのが冒頭で、「まだ復旧工事半ばの港周辺や海岸沿いとは違い、家から見える景色は少しも変わっていない」と感じつつ庭をゆったり散策する著者に、義母が昼食を用意している、平和なシーン。

さらに庭の植物たちや、微かに耳に届く喧騒の音がそのシーンを彩り、平和な印象を見事に強調しています。

また、色とりどりの花々が、著者の色あせない思い出と重なり、ノスタルジックな雰囲気を醸し出しています。

恩師との思い出というシンプルなテーマで、ごく短い時間のことを描いた作品ですが、そのノスタルジックな雰囲気にもっと浸っていたいという心持ちにさせられました。 「日ごろは意識していなくても、庭には私の歴史が息づいている」

次の作品では、上記の印象的な一文について、さらに語られることを期待しています。

編集室 室長 山名克弥

エッセイ部門3小さな旅福丸

旅が嫌いだ。旅自体というより、それにまつわるエトセトラが面倒だ。旅行というとなぜあんなにうれしそうにアレヤコレヤと準備するのだろう。それに加えて、出かける前から情報や観光スポットを調べまくり、どこそこの何を見るべきとか、何を食べるべきだとか、そんなことを事前に決めるのも旅の楽しさだという人たちの気がしれない。いっそ小学校遠足みたいなしおりをつくり、『スタンプラリーの旅』と銘打って指定されたスポットを歩き回る形式にすればいいのに、と思っていた。

旅が嫌いの理由には、もう一つある。

二十代はじめに初めて就職したのはフランクフルトの免税店だった。店のすぐ裏がゲーテハウスという、観光スポットのまっただ中にあった。店の前には大型観光バスが停車し、ガイドにせかされた大量の観光客が店に流れ込む。そして一定時間店内をさまようと、矢印のように次の目的地へ流れてゆく。私たちは矢印の流れの中にあって点のように仕事をした。

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編集者講評

著者独特の比喩表現が非常に魅力的な作品でした。「小さな旅」というテーマに応募された本作ですが、なんと「旅が嫌いだ。」という一文から始まります。20代はじめにフランクフルトの免税店に就職し、ある意味、旅している状態が日常だった著者。旅好きで「国境」「南の国」をまるで勲章のように頻繁に話題にする同僚とは対照的に、カフェで現地の人の生活を観察し、室内から日本人旅行者たち眺めることを趣味にしています。

旅好きからすると非常にうらやましい生活を送っていた著者ですが、自身のことを「ちぎれた矢印みたいな、どこにも属さない自分」と評し、さらにそこに寂しさではなく開放感を覚える感性にどんどん引き込まれていきます。

警官たちが著者の部屋のベルを押す場面では、自身の居場所を見つけられないまま内にこもっている「著者」とそんな著者のドアを開けようとする「外」との対比が描かれ、読者までもが異国の地にひとりぼっちにされたような気持ちにさせられます。

そんな日常にピリオドを打ち、「妻」「母」としての現実を生きた著者が旅に出るまでの浮き足立った様子はどこかおかしく、前半とは異なる人間味を感じさせます。実際に旅が著者の期待にこたえてくれることはなかったようですが、冒頭の一文に繋がる深いラストが用意されており、次は著者の読書論を読んでみたいと強く感じました。

編集室 室長 山名克弥

フォトエッセイ部門北国の朝岡内祐治

この写真を撮ったのは冬の北海道を撮影旅行中のことだった。

旭川から北海道入りした私は、1日旭川に滞在したのち、釧路行きの夜行バスの乗客となった。少し前なら釧路行き夜行列車が走っており、鉄道が好きな私ならそれに乗ることを選んだだろう。しかし今、夜行で釧路に行く方法はバスしかない。ある意味「しかたなく」バスに乗ったわけだが、バスの進化に驚いた。座席は快適で、保温性も良いし、綺麗なトイレまでついている。少し前に夜行快速として有名な「ムーンライトながら」に乗ったが、夏なのにとても寒く、座席は硬いしトイレは古かった。これでは夜行列車が夜行バスに負けてしまうのも納得である。こんなことを考えながら眠りにつき、朝5時過ぎに釧路駅前に到着。

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編集者講評

本作のテーマとして、「対比」が挙げられるように感じました。

最初に登場する対比は、夜行バスと夜行列車の対比です。夜行バスの「新」と夜行列車の「旧」の対比が描かれています。夜行列車が廃止され「しかたなく」夜行バスを選んだ鉄道好きの著者ですが、夜行列車が廃止された理由に思い当たり、その利便性を享受します。

次の対比は、コピー写真と作品です。クリエイターならではの、個性のない「コピー写真」への反発。さらに、「小さな目印」「足跡」と「GPS」「人工物」の対比。続いては、本作のメインテーマともいえる「インターネット」と「本物」の対比が描かれます。人を動かす、本物を見たい気持ち。前出のコピー写真の例を用いて、筆者の伝えたいことが見事に描写されている一節でした。

後半からは、どこか小説のように散策の様子が描かれ、著者の体験を読者に疑似体験させてくれています。

最後には、気候の「寒さ」と受付の方や車に乗せてくれた方の「あたたかさ」が対比され、エッセイとして理想的な結びといえるでしょう。

以上のように多くの対比が散りばめられていた本作ですが、最大の対比は著者と読者の対比です。何物にも代えがたい経験をした著者と、どれほど本作に入り込んでも寒さやあたたかさを実際に体験することのできない読者との対比が最も印象的に感じられました。

編集長 矢口 仁

編集部より

本コンテストページをご覧いただき、ありがとうございます。 第1回WEB小説コンテストに続き、第2回WEBコンテストはエッセイを募集いたしました。 人と人の絆、日本社会の行方、小さな旅という3つのテーマから選択して書かれた「エッセイ部門」と、 1枚の写真とその写真に関わるエッセイをまとめた「フォトエッセイ部門」。 初めての試みとなりましたが、たくさん魅力的な作品に出合うことができました。 ご応募いただきましたみなさまに、心より御礼申し上げます。

今後もまだ見ぬ“名作”を発掘し、1人でも多くの読者に届けられるよう邁進してまいります。 どうぞご期待ください。