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大賞作品
電子書籍化

大賞

『猫のソラリス』志賴眞:著

【大賞作品 幻冬舎ルネッサンスより電子書籍化】

『猫のソラリス』
(志賴眞・著)


■あらすじ
古き良き、老舗の映画館「昭和座」。三十年前に廃業となったその映画館には一匹の猫が住み着いていた。名前はソラリス。2年間ほどそこで働いてきた「私」が、昭和座とソラリスについて回顧していく物語である。
当時若者だった「私」がアルバイトをしていた頃、ソラリスは既に10歳をこえた老描だった。この猫に「ソラリス」と名付けたのは「私」。タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』という、難解で不思議な映画が由来だ。狸のような容姿と不思議な態度が、この映画と通ずるところがあるように思われたからである。
昭和座の閉館が決まった日、従業員の就職先よりも心配だったのが、ソラリスをどうするかであった。結局「私」が引き取り手に決まるも、閉館の日、ソラリスは朝から姿を現さなかった。
どこか哀愁の漂う、ノスタルジックな小説作品である。

大賞作品『猫のソラリス』
編集者講評

映画と猫に対する愛がつまった、ノスタルジー漂う作品です。猫に対する描写も、映画に対する描写も、どちらも実に丁寧で、映画と猫の両方が好きな読者にはたまらないものがあるでしょう。
特に、人物描写ならぬ猫描写が上手いです。台詞を発することのできない猫だからこそ、動きのみで性格を描ききっています。匂いを嗅ごうとして鼻先がアップになった写真や、面倒くさそうに寝転がる様子など、目に浮かぶようなリアリティのある描写が見事です。
映画館の終焉を察しているかのように振る舞い、閉館日に姿を消したソラリスの姿は涙を誘います。猫は死期を悟ると姿を消すといいますが、居場所である映画館の死も、本能で悟っていたのでしょうか。この場面は特に叙情的で、本作の白眉といえるでしょう。

もちろん猫だけでなく、人物描写も巧みです。硬派で不器用、心から映画を愛し、街の文化を憂うオーナー。ソラリスを拾った張本人で、オーナーの親の世代から昭和座を支えている夏木さん。どの人物も血の通った人物としてよく描かれています。

人も、場所も、もちろん猫も永遠ではない。いつか訪れる別れを美しく描いた作品です。

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