エッセイコンテスト

大賞作品
電子書籍化

大賞

『要恋慕度』阿部敦子:著

【大賞作品 幻冬舎ルネッサンスより電子書籍化】

『要恋慕度』
(阿部敦子・著)


■あらすじ
お年寄りだって恋をする。それは認知症になっても変わらない。
導入のエピソードは若い男性スタッフに恋をする98歳の入居者について。彼女の乙女の部分を知らない男性スタッフとのすれ違いを妄想半分に面白おかしく語っていく。
次に登場するのが、56歳にして突発的な病で海馬の機能を失い、僅かな時間しか記憶を維持できなかった高校教師である「先生」。彼と著者の関係性が本作のメインストーリーだ。
「先生」は自分が置かれた状況すらも記憶できないため、「授業があるから」と帰ろうとする。満腹中枢が壊れているため、一日に何度も繰り返し「食事はいつ出るのか」と質問をする。しかし、地学や教育についての話になると、まるで障害を感じさせないほど楽しそうにスラスラと語る。著者はあくまで「利用者」ではなく「先生」として接し、交流を深めていく。地学と同じくらい楽しそうに話すことはもう一つある。それは家族について。愛する妻についてだ。地学についての記憶が失われても、愛する妻と息子のことだけは忘れまいと繰り返し自分自身に語りかける「先生」の姿に、著者の大きな愛を感じる。

大賞作品『要恋慕度』
編集者講評

ユーモラスでありながらも最後は泣かせる。エッセイとして非常に出来の良い作品です。
冒頭の「お年寄りだって恋をする」という一文が実に秀逸で、この言葉が本作のすべてをあらわしているといっても過言ではありません。要するに「老人」ではなく「一人の女性」や「一人の男性」としてみるということ。たとえ認知症であっても、子供のように扱うのではなく、一人の人間として尊厳をもって認識するべきなのだというメッセージが込められています。本作は無意識に高齢者にレッテルを貼っていた人々に衝撃と気付きを与える作品になるでしょう。
後半の「先生」のパートでは、そうした問題意識を超えて「愛」というテーマに深く切り込んでいきます。「博士の愛した数式」の主人公のように、失われる記憶に対して「愛」の力で抵抗していくさまは多くの読者の胸を打つことでしょう。
笑って泣いて、最後には暖かいものが心を満たす。テーマ・プロット・文体。どれをとっても満点の傑作です。

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