君の人生は大丈夫か?

No,51

西本 剛己

作品紹介

No.51 西本剛己

君の人生は大丈夫か?

西本 剛己

狭い領域の専門家(スペシャリスト)ではなく、
マルチなジャンルで活動できる総合者(シンシスト)を目指してほしい――。

デザインとは何か。
それは、「はっきりとモノを伝える仕組み」であり
「流れをより良くするための仕組み」のことである。
デザイン思考の本質を解き、人生や社会のあらゆる場面に活かして
“クリエイティブな人生の実践者"になるための方法を解説。

現代美術と空間デザインの第一線で長年活躍し
独自のプレゼンテーション講座に定評のある著者が語る
「的確なコミュニケーションを生む思考」「効果的なプレゼンテーションの法則」など、
自らの人生をデザインし、確実にチャンスをつかむためのノウハウが満載の一冊。

プロフィール

No.51 西本剛己

西本 剛己

1961年東京生まれ。明星大学デザイン学部教授。
専門分野は現代美術と空間デザイン。
異分野をリンクさせ、統合する様々なプロジェクトを手掛ける。
2005年「愛・地球博」日本館代表アーティスト。
2017年に帝国ホテルの常設アーカイブ空間「インペリアル・タイムズ」を設計。
大学ではデザイン学部長、明星教育センター長、広報改革担当学長補佐を歴任。
特に独自のプレゼンテーション講座に定評がある。

座右の銘

人生で一番大事なのは、根拠のない自信


子供の頃からずっとそれでやってきたからです。とにかく新しいことに挑戦して見たことのない世界を見てみたい、いつもそんなです。挑戦が必要なときでも、多くの人は尻込みしてしまいます。また挑戦してみたとしても、腰が引けていては身体も頭も硬くなって実力は発揮できません。したことのないことなのだから、できる根拠などあるはずがない。だから「できる」と思い込むことこそが、人生を進める上で重要なのだと信じています。

書籍に込めた想い

この書籍ではデザインが、人生と未来を切り拓いていくために、誰にとっても必要かつ有効であることを伝え、プレゼンテーションの組み立て方など、すぐに実践できるテクニックについても触れています。しかし大事なのは、その根本を成す「自分を鍛えぬくことの大切さ」「信念を貫くことの大切さ」そして「言葉の大切さとその威力」です。
学生たちに常日頃言っているのは「僕の授業は、君たち若者に『大人のやり方を教える』ためにやっているのではない」ということです。大人たちの多くは、自分のことしか考えていなかったり、自分の人生に目を背けていたり、他人のすることを評論するだけで、自分ではそれ以上のものを何一つ生み出せない人間ばかりだ。君たちには、そんな大人になってほしくないからやっているんだ、と伝えています。
若い人たちに、社会の中で、人間としての本当のプライドを持つために必要なことを語りたい、それが『君の人生は大丈夫か?』に込めた思いです。

インタビュー

刊行した今のお気持ちをお聞かせください。

以前からよく人に「本を出してよ」と言われていたのですが、僕は何か一つの分野のスペシャリストではないので、そういう機会はないだろうと思っていました。ところが今回、若者に向けた人生の本をという依頼を受けて書き始めたら、意外なほどさらさら書けたし、本当に自分の考えをストレートに表現しているので、一人でも多くの人に読んでもらいたい。文体にもこだわりがあります。それも楽しんでほしいです。

今回出版を決意したきっかけを聞かせてください。

本にも書きましたが、明星大学の教員をしていると、学生たちが本当に真面目に僕の言葉に耳を傾け、僕のメッセージを大切にしてくれるので、「目の中に入れても痛くない」と本気で感じます。しかしそれだけに、もっと多くの若者に自分の考えを伝えるべきなのではないかと感じていました。それが出版を決意したきっかけです。

どんな方に読んでほしいですか?

かつてない変化が起こるであろうこれからの社会を生き延び、活躍していかなければならない、10代20代の若い世代の人たちにぜひ読んでほしいと思っています。ただし僕の言葉は、限られた世代に対するメッセージというわけではありませんから、実際にはあらゆる人に読んでもらいたいです。

座右の一冊

流れとかたち—万物のデザインを決める新たな物理法則

著:エイドリアン・ベジャン

デザインは色や形ではなく「仕組み」だというのがかねてからの持論でしたが、では何のための仕組みなのかということについて、この本に出会うことで全てが明白になりました。私はデザイナーは科学を学ぶべきだと日頃から伝えていますが、ベジャンは、科学者はデザインを学ぶべきだと訴えており、その根本にある考え方は同じです。この本を読んだとき、子供の頃、砂場の山に真逆からトンネルを掘り、ついにトンネルが繋がって手を結んだ時のような興奮をおぼえました。

ヒストリー

HISTORY 01 生後10ヶ月頃の僕

生後10ヶ月頃の僕

高校の頃、タンスの奥から古い録音テープが出て来て聴いてみると、生後10ヶ月頃の僕の意味不明なハナモゲラ語がひたすら続いています。それを祖母が「そうなのぉ」と相づちを入れながらずっと聞いてくれている、というものです。写真は1歳の誕生日のものですが、僕は祖母にいつもそんなおしゃべりをしていたのでしょう。懸命にしゃべると必ず祖母が肯定してくれる。こうした幼少期の体験が僕の言葉の原点になっているようです。

HISTORY 02 岡本太郎

岡本太郎

小学3年生のときの大阪万博は、まさに圧巻。そこには本当に未来がありました。当時は外国旅行できる人など限られていたしネットもないわけですから、多くの日本人にとって初めて本物の外国文化や最先端技術に接した機会でした。中でも僕のお気に入りは「ロボット館」と「太陽の塔」。岡本太郎という人の存在を初めて知ったあのときの衝撃が、僕をのちに芸術の道に進ませる直接のきっかけになっていたのかも知れません。

HISTORY 03 私立武蔵中学高等学校の友人たちと先生

私立武蔵中学高等学校の友人たちと先生

私立武蔵中学高等学校の友人たちと先生こそ、知識欲と議論の大切さを教えてくれた僕の生涯にわたる最大の財産です。写真は高校1年のとき、友人宅での昼食(手前右が僕です)。僕の家は貧しかったので、裕福な友人の家でフルコースなんか出されると、自分なんかここにいていいのか?と戸惑ったけど、いつかあの時の仲間で良かったと思われるように絶対に頑張るんだと、食事しながら決意したのを今でもはっきり覚えています。

HISTORY 04 展覧会

展覧会

30代初めに、NYの画廊から声がかかり展覧会をしました。国連を巻き込むテーマで作品を作っており、その後美術界でも異端児扱いされます。写真はNYの国連本部前。僕の作品に興味を持ってくれた国連職員が一般の人が入れない場所などを案内してくれました。最後に国連の職員食堂で「君は理想主義者か?」と聞かれたので「そうだ」と答えると、彼はニッコリ笑って「僕もそうだ」と答えてくれました。

HISTORY 05 英会話教室の友人たちとの花見

英会話教室の友人たちとの花見

30代の終わり、英会話教室の友人たちとの花見。右から二番目が今の妻です。その少し前、僕は2年間うつ状態だったのですが、こうした仲間達のおかげで立ち直り、妻はその後も常に支え続けてくれているので、僕は自分の仕事だけに全エネルギーを注げます。さすがに本の中には書かなかったのですが、人生の成功の本当の秘訣とは、実は最強の伴侶を得ることなのかも知れません。

人生を変えた出会い

多くの人の支えがありましたが、それは人生を変えたというより、本にも書いた「階段状の人生」のステージを上げるきっかけとなった人たちです。しかし僕の「人生を変えた人」も実際にいます。
明星大学の教員にならないかと打診を受け、初めて訪れた日のこと。ありがたい話でしたが、自宅から遠すぎて辞退するつもりでした。春休みでJRの駅からのバスが終点の大学に着いたときには僕以外、一人しか乗っていませんでした。バンドの練習に向かう学生だったのでしょう。ミラーグラスに金属のトゲトゲのついたゴシックファッション。ベースを背負っていました。ところが終点で、彼は僕を先に通さなくてはと遠慮しているようだったので、ちらと手で合図して僕が先にバスを降りました。そして校舎に向かって歩き始めたときです。「ありがとうございました!」とバスの運転手に挨拶する声が聞こえたのです。僕は衝撃を受け、こんな子たちになら授業をしてみたいと思ったのです。
彼が誰か分かりません。しかしあのとき彼がいなければ、僕は大学教員になっていませんでした。

未来へのメッセージ

これまで本当に様々なチャレンジに恵まれてきました。しかも年齢が上がるほど、同時に何種類もの仕事をこなし、常にフルスロットルで生きてきました。周りからはよくワーカホリックと笑われます。でも、自分がどこまでやれるのか見てみたいという衝動に突き動かされ続ける自分に半ば呆れながら、僕は西本剛己を思い切り楽しんで生きています。今の若い人たちにも、年齢がいったときに僕のような充実感を味わえるように、自分への挑戦をし続けてほしいです。
今後は、できればどんどん世界に跳び出て、世界を相手に自分の力を試してみたい。その作戦も少しずつ進めています。しかしそれが叶うとしたら、そこにはまた新しい様々な人との出会いが必要なはずです。結局、人生の一番の財産は人との繋がりです。そして自分の目的が、人との関係や社会の流れをより良くするためのデザインに結びついていなければ、結果は出ないと思います。そのためのさらに高度な人生のデザインに挑戦するつもりです。