大賞作品
電子書籍化
『江戸屋の正一』辻茂:著
【大賞作品 幻冬舎ルネッサンスより電子書籍化】
『江戸屋の正一』
(辻茂・著)
■あらすじ
神や仏は本当にいるのか。仮にいたとして、彼らは人々にご利益や奇跡を与えることはあるのか。昭和初期、香川の老舗商店の跡継ぎである正一は、いつからか「神仏在りや無しや」という疑問を抱く。「あの家は実力ではなくご利益で繁盛している」という噂への反発や、いくら祈っても助からなかった妹の死に対する想いから、神の不在、もしくは神がいても我々に干渉することはないという証明を試みる。
マルクスやパスカルの考えを引用しながら、「神仏の示現や奇跡などは絶対にない」という結論に至るが、その後「弘法大師の示現ではないか」と思われる謎めいた少年と出会い、考えに変化が生まれる。
大賞作品『江戸屋の正一』
編集者講評
一神教の国家においては「神の存在証明」というのは重要なテーマとして幾度となく文学作品に取り上げられていますが、多神教、ヤオヨロズの神がおわす国である日本ではあまり見られないテーマといえます。
「神仏の示現」と思われる出来事に直面した主人公が強くショックを受けたり、考えを180度改めるような大きな変化をすることなく、自然に受け入れる、という結末も素晴らしいです。西洋文学では深刻な問題としてとらえられることの多い「神」に関する考察を、本作では身近に描いているのです。
また、「神」について考察する場面において、アカデミックになりすぎず、易しく説明している点も評価できます。西洋哲学から日本の信仰まで理知的に分析しながらも、あくまで中高生が呼んでも理解できる範囲の言葉で説明しています。
重大なテーマを、あくまでエンターテイメント小説として分かりやすく描いた傑作です。