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『故郷まで捨ててしまうのですか?』安達 和夫:著

【大賞作品 幻冬舎より電子書籍化】

■著者紹介
『ふるさと、捨てられますか?』(安達和夫・著)
※出版にあたりタイトルが変更になりました。 発売:2018/3/22

Uターン就職をして知る、ふるさとの温かさ。しかし、昔のままではいられない現実を突きつけられる。国と自治体、そして市民の関わりから、日本の未来がみえてくる。決して他人事ではない、ふるさとを守るために何ができるのか。地方再生のヒントがちりばめられた痛快小説。

近藤 勝重 先生 大賞作品『故郷まで捨ててしまうのですか?』
近藤 勝重 先生 講評

ぼくはこんな例えをよく口にします。 新聞は「人間の問題」を、週刊誌は「問題の人間」を取り上げる、と。

物事の本質を浮かび上がらせる上で、比較対照話法は実に効果的なんですね。
『故郷まで捨ててしまうのですか?』は随所で、というより全編にわたってこの手法を採っています。
まずもって時を平成大合併の前と後で区切り、かつ東京オリンピックの後年と断って物語を起こしています。出てくる舞台も漁師の村と未来都市、人物も自治省の官僚と村の役人・・・
挙げていけば切りがないほどですが、話が核心に入ると昔ながらの村の産業とハイテクの未来技研、旧来の医療の村立病院と遠隔診断サービス医療、さらには介護のあり方と従来の献立とAIのレシピといったぐあいに比較対照は分野を問わずです。
そうして物語の舞台となる関東東部の末畑村の今と昔の現実を照らし出し、諸問題のありかも鮮明になってくるのですが、この手法は人間にとっての最大のテーマでもある幸福とは?を考える上でも、実に今日的な視点を提供してみせます。

いくらハイテクだ、ロボットだといっても果たしてそれで人間が幸せになれるのか。村民たちの幸福な生活のためには何が必要なのか、と主人公の官僚、長澤は考えたのでしょう。地域コミュニティという概念から共同炊事的という場まで設定するのです。そしてコミュニティ村の誕生を見すえつつ、官僚と村で働く娘との恋愛話を進行させていくのです。
いやこれは利己的な社会から利他的な社会へという、この国が切望してやまない幸せのかたちを描き出そうとする希望の小説です。 それぞれの分野での知識も豊かですから、安心して読めます。テンポもよく、流れもよく、ストーリーが苦労なく頭に入ってきます。

賞賛すべき点は多々あるのですが、物語の展開が会話に依存してテーマを掘り下げている印象が強く、そのせいでしょうか、いくらか説明っぽい冗長な語りが少々気になります。
会話をもっと省略して、言わんとするところを想像させる、つまり書かずして書く「余白」づくりの芸を身につけた文章作法を意識して書かれたら、ぐっとよくなったのではと思えてなりません。全編に漂うある種の甘さもそれで克服できた気もします。
読み手にわかるだろうか、とていねいに書くと、そのぶん文章の味わいが弱まるものです。それともう一点気になったのは、登場人物の言動を細かく追っているせいか、視点がバラついている印象を受けたことです。主人公の長澤なる人物の“三人称一視点”に徹して物語を運べば、もっと読みごたえも増したのではと思えなくもありません。
ともあれ全体としては好感の持てる作品に仕上がっていて、それは作者その人が人、物、自然との関係性を大切にして生きてきた証しであろうと気持ちよく読了できました。ありがとうございました。
読後感のよさはこの時代により必要なものと思われ、作者のこれからを大いに期待しています。

近藤 勝重

入賞

「読むカフェ」に掲載いたします。

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