コラム

時をこえてヒットし続ける「タイムスリップもの」の魅力とは?**

 

SF作品のなかには「タイムスリップ」(「タイムトラベル」「タイムトリップ」とも呼ばれる)というジャンルが存在します。

過去/未来を行きつ戻りつするこのジャンルは、多くのファンを抱える人気ジャンルです。

実際、イギリスの小説家H・G・ウェルズが1895年に発表した『タイム・マシン』や、1967年に発表された筒井康隆の『時をかける少女』など、国内外を問わず多くの名作が生み出されています。

本コラムでは、この「タイムスリップ」ものの主な魅力を三つご紹介します。

 

①時代をこえた友情・愛情

 

タイムスリップ作品の醍醐味の一つは、時代を超越した友情や愛情にあります。

 

2002年に公開された『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』は、前作の『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』と並び「泣ける映画版しんちゃん」の印象を決定づけた名作です。

本作は、野原一家が戦国時代にタイムスリップし、井尻又兵衛由俊という侍をはじめとする当時の人々と交流し、ともに戦うというストーリーであり、典型的なタイムスリップものの一例として考えられます。

実は、まさに本作がタイムスリップものであることが、感動の一因になっていると考えられます。

 

本作の感動は登場人物の「交流と別れ」にもとづいています。

出会ってからどれだけ仲が深まり、そしてどれほど悲惨な別れが訪れたのかというギャップが、視聴者の感情を揺さぶっているのです。

これはタイムスリップ作品に限らない話ですが、何らかの壁を乗り越えて親しい仲になったほうが交流のもつ重要性は高くなります。

 

では本作で「壁」となっているのは何か──言わずもがな「時代」の壁です。

作中では、又兵衛がしんのすけに現代の婚姻制度について質問し、身分差や年齢差にかかわらずパートナーを選択できる時代について理解を深めあうシーンがあります。

このシーンは、現代を生きるしんのすけと、戦国時代を生きる又兵衛の価値観が交錯しあう場面であり、時代の壁を超えた交流ということができます。

 

このように、価値観や制度の違いを乗り越えてキャラクターが互いをリスペクトしあっていたからこそ、又兵衛の死による「別れ」は一際悲しい色を視聴者の心に残し、感動を生み出しているのです。

 

②緻密で鮮やかな伏線回収

 

タイムスリップを扱った作品には、伏線を強みにしたものが多くあります。

上田誠氏が作・演出を務めた戯曲『サマータイムマシン・ブルース』は、その好例です。

ちなみに2020年には、森見登美彦氏の人気作品である『四畳半神話大系』と異色のコラボが実現し、2作のタイトルを合わせた『四畳半タイムマシンブルース』が刊行され話題となりました。

 

『サマータイムマシン・ブルース』は、クーラーのリモコンが壊れ灼熱の部室で過ごしていたSF研究会のメンバーの前に都合よくタイムマシンが現れ、まだ壊れる前のリモコンを入手するべく昨日の世界へタイムスリップするところから始まります。

しかし、過去を改変することで現在の世界が消失してしまう危険があることを知り、SF研究会は原状復帰するため過去・未来を往復し奔走する──『サマータイムマシン・ブルース』は大まかに言えばこのような作品です。

 

ポイントは、過去を変えることで未来に影響するという、タイムスリップものでは定番の設定です。

同作を鑑賞するうちに、観客には「あの出来事も、実は過去にしでかしたあれが原因だったのだ」と物語の秘密が次々と明かされていきます。

まさに伏線回収の嵐のような作品です。

 

タイムスリップものは、歴史がもついわば「修正力」のようなものをフルに活用することで、何気なくとった行動が思いもよらない結果をもたらすことを、ダイナミックに描くことができます。

過去へ未来へと視聴者を引きずり回しながらとんでもない方向へと突き進んでいく──こうした特徴も、タイムスリップものの大きな魅力の一つです。

 

③哲学的難問 タイム・パラドックスを考える

 

タイムスリップ作品は、よりマニアックに楽しむことも可能です。

SF作品の愛好家には、科学的な考証に没頭する研究者のような方も多くいらっしゃり、作品の面白さだけでなく、その作品に登場する学説や理論をも味わっているのです。

 

先ほど、過去を改変することで未来に影響が生じるという話をしました。

こうした影響によって生じる、一見すると解決不可能に思われる難問のことを「タイム・パラドックス」と呼びます。

タイムスリップ作品にはこの「タイム・パラドックス」を扱ったものも少なくありません。

 

代表的なものが「親殺しのパラドックス」です。

自分が生まれる前の過去に戻って親を殺めてしまえば、自分が生まれてくることもありえなくなるが、ではこのとき親は一体「誰に」殺されたのか、という問題です。

生まれていないはずの人間に殺される、という矛盾が生じてしまうわけですね。

 

実は「親殺しのパラドックス」に近い問題を扱った、超人気漫画が存在するのです。

それが『ドラえもん』です。

 

『ドラえもん』第1話では、ジャイ子と結婚するはずの未来からドラえもんとのび太の孫・セワシが現れ、未来から見た過去ののび太に干渉しようとします。

そこでのび太は「のび太のくせに生意気」なもっともな疑問を投げかけます。

 

ぼくのうんめいがかわったら、きみ〔=セワシ〕は生まれてこないことになるぜ。

 

そのとおりです。セワシから見た祖父にあたるのび太の結婚相手が変わってしまえば、その後の遺伝子のあれやこれやにも影響が生じて、セワシが生まれなくなってしまうかもしれません。

この問題は「セワシくん問題」とも呼ばれ、多くのドラえもんファンの議論を呼んでいます。

ちなみに、それに対するセワシくんの答えは次のようなものです。

 

しんぱいはいらない。ほかでつりあいとるから。
れき史の流れがかわっても、けっきょくぼくは生まれてくるよ。
たとえば、きみが大阪へ行くとする。いろんなのり物や道すじがある。だけど、どれを選んでも、方角さえ正しければ大阪へつけるんだ。

 

ぜひコミックスで確かめていただきたいですが、のび太の表情は明らかに納得いっていない様子です。

しかしドラえもんの頼れる「めんどう見てやるよ」という言葉に動かされ、結局は彼らの言い分を受け入れることになるのでした。

「セワシくん問題」については多くの仮説が提出されているので、ぜひ皆さんも納得のいく説明を考えてみてはいかがでしょうか。

 

まとめ

 

最後に、本コラムでご紹介した内容をおさらいしましょう。

・タイムスリップ作品の魅力の一つ目は「時代をこえた友情・愛情」。時をこえて仲が深まることで、読者もどっぷりと感情移入できる。

・タイムスリップ作品の魅力の二つ目は「緻密で鮮やかな伏線」。過去/未来へ読者を連れ回すなかで、巧みに伏線を回収することで感動を生み出すことができます。

・タイムスリップ作品の魅力の三つめは「哲学的難問 タイム・パラドックス」です。自分の納得のいく仮説を提案するディープな楽しみ方も可能です。

 

多様な魅力があるだけ、多様な楽しみ方が可能なタイムスリップ作品。

何度も何度も読み返せば、そのたび新たな発見があることでしょう。

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