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本から生まれた絆(作家:山口紀美子)

 

『奪われた若き命 戦犯刑死した学徒兵、木村久夫の一生』の著者によるコラムです)

前回のコラムはこちら「はじめての講演

 

 

 

前回記した勿来の講演会では、思いがけない出会いがあった。それはなるかしさにあふれた再開でもあった。40年近く前8年間勤務していた小名浜一小(福島県いわき市)では授業参観後の学級懇談会を通して多くのお母さんと親しくなった。再開した方はそのときのおひとり、草野夕起子さんだった。

 

視線があった瞬間、わたしは自分の目を疑うほど驚いたが、すぐ小名浜一小時代の様々記憶がよみがえった。互いに近寄ったとき、草野さんが、「ここに来れば山口先生にお会いできると、楽しみにしていたんです。」と言われた。そのひとことに、わたしは胸がいっぱいになった。

 

感激的な出会いの中で、とっさに1本の黄色いバラの花が目に浮かんだ。それは草野さんがお子さんに持たせてくれたバラだった。実はこのことは、長い歳月の間に何度となく思い出していたのであった。

 

このようなむずびつきのある草野さんが、講演会の会場で『奪われた若き命』を7冊求めてくださった上、フェイスブックに写真も入れ、お友だちにすすめて下さっていたのである。草野夕起子さんが40年近く前教え子のお母さんだったことを想うと、わたしは、ただただ頭が下がる思いだった。

 

講演をしている間、みなさんの真剣なまなざしが、わたし自身に 向けられていた。それを感じた瞬間、たくさんの視線の間に自分が吸い込まれていくような気持になった。わたしははじめて、そのような体験をした。あたたかな雰囲気の中で、わたしは、この場に立つことができてよかったと、しみじみ思った。

 

講演終了後わたしたちは、思い切り喜び合った。その時に草野さんが、「いつかはお会いできると思っていました。」と言われた。それが講演会の場で実現したのである。全く思いもよらないことであった。この再開は今後のわたしたちにとって、大切なきっかけになったと思う。これからは互いに歩んできた道のりを話す機会を持つことができると思うからである。草野さんは社会活動と、くさのクリニックでの奥様としてのお仕事を、そしてわたしは、教師の道を歩みながら執筆活動を続けてきた日々を、互いに振り返りながら話すことができたら、こんなにうれしいことはない。

■著者紹介
『奪われた若き命 戦犯刑死した学徒兵、木村久夫の一生』(山口紀美子・著)
1941年、日本は大東亜戦争(太平洋戦争)に突入する。日本では多くの国民が徴兵され、戦場に向かうことになった。そんな時代に行われた学徒出陣で徴兵された若者たちの中に、木村久夫という一人の青年がいた。
終戦後、戦地であったカーニコバル島の島民殺害事件に関わった人物として、木村久夫さんはイギリスの戦犯裁判にかけられ、死刑を言い渡された。その時木村さんが書いた遺書は、学徒兵の遺書をまとめた『きけわだつみのこえ』に収録されたことでよく知られている。
その『きけわだつみのこえ』を読み、木村久夫という個人に心惹かれた著者は、木村久夫さんの妹、孝子さんと何年も文通を重ね、木村さんのことをさらに深く知っていった。その後、孝子さん夫妻と実際に何度も会い取材を重ねていく中で、著者は木村久夫さんが歩んできた人生の足跡を辿っていくことになる。

 
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