3・11以降のいささかメディアスクラム的な報道によって、いまや国民の相当数が知るところとなった原子力におけるあれこれの知識。まちがいなく総量としてはわれわれは、「原子力問題」というものを身近に感じ、それぞれの立場で考え、対処することができるようになった。ところがこの原子力についての肝心の科学的知見に関しては、まるで「薄い」情報しかないことを、これまたわれわれはうすうす知っている。少なくとも私にとって、わかりやすい原子力情報の参照物になっているのが本書である。ある種の科学読み物としてもおもしろく読めるものだった。
私の身内にも放射線技師がいるが、彼女がどのような立場や制度下で放射線を扱っているかなど、自然被爆線量とのからみも含めて、はじめて本書で想像ができたほどだ。
ドクターでもある著者は、原子力専門家の常用するデータ、たとえば将来の発がん率は0・5%増えるだけだと発表されたことに対して、その実数を示唆し、医者としての強い「違和感」もこぼしている。
なお著者は広島大学医学部出身とのことで、戦後のヒロシマにおいて、なかなか見聞できぬ原爆資料に(医学のサンブルとして)接してきた体験をもつという。そのあたりのリアルな描写が迫真的であり、単なる解説屋さんとはことなる「気持ち」の裏付けを感じさせられた。
たとえば原子力委員会をやめた小佐古氏の良心と勇気ある撤退ぶりに、著者は賛辞を呈しているが、一方、グローバル化してしまった日本が、もしも安易な正義感で原発廃止にむかった先に待ち受けているものの絵図も描かれており、バランス感覚に富んでいる。そんなところにも書き手の心意気を感じる一冊だった。
今後また原発問題は、どこかで大きな判断を下すジャーナリスティックな国民的話題になるはずで(現在は、アベノミクスの宴でかすんだ感じか)、その際にも、われわれが備えておきたい基礎知識を網羅してある一冊である。大鹿氏の『メルトダウン』のようなルポともども、サイエンス好きの人間はぜひ科学読みものとして読んでおきたいものである。

無料のKindleアプリをダウンロードして、スマートフォン、タブレット、またはコンピューターで今すぐKindle本を読むことができます。Kindleデバイスは必要ありません。
ウェブ版Kindleなら、お使いのブラウザですぐにお読みいただけます。
携帯電話のカメラを使用する - 以下のコードをスキャンし、Kindleアプリをダウンロードしてください。
人間と原子力〈激動の75年〉―原子爆弾・原子力発電・放射線被曝 単行本(ソフトカバー) – 2013/2/21
國米 欣明
(著)
本書は、“原子力"の全貌を俯瞰し、読者に“原子力"の真実を問うことを目的としています。中性子の発見から原子力(核エネルギー)の研究とその理論、忌まわしき核兵器および、原子力潜水艦の開発。そして平和利用が目された商業原子力発電に至るまでの過程とそれを取り巻く人間と歴史的背景、さらには放射能被曝、原子力災害事故による被害といった部分までを、事実の詳細な積み重ねによって紐解きます。原子力を推進するか、放棄するかという二者択一ではなく、その本質と真実を広く知らしめ、その視野をもって未来を眺望せねばならないという問題提起を行っています。被爆後7年目の広島で物理学と医学を学び、その後、医師として仕事を続けてきた著者による原子力入門書。
- 本の長さ310ページ
- 言語日本語
- 出版社幻冬舎ルネッサンス
- 発売日2013/2/21
- ISBN-104779009243
- ISBN-13978-4779009242
商品の説明
著者について
被爆後7年目の広島の地で物理学と医学を学んだ後、岡山大学付属病院の講師として、物理学と医学の接点で研究・治療を続けてきた。専攻は生命工学分野で、アメリカ原子力委員会傘下のアルゴンヌ国立研究所の物理学者と共同で当時まだなかった小型人工腎臓を開発している。1983年より執筆活動を開始し、特に、科学、医学、教育などの境界領域にまたがる分野の解説を得意なジャンルにしている。著書多数あり。本書は今年(2013年)が核分裂発見から75年に当たることを意識して書き下ろしたもので、核分裂発見についての平易な解説と、人間と原子力の歴史的なかかわりについて広い視野での切り口がユニークである。核兵器、原子力発電所の事故、そして放射線被曝についても詳しく書かれており、原子力全般をよく知ることができる構成になっている。
登録情報
- 出版社 : 幻冬舎ルネッサンス (2013/2/21)
- 発売日 : 2013/2/21
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 310ページ
- ISBN-10 : 4779009243
- ISBN-13 : 978-4779009242
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,342,650位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 110位原子力・放射線
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
星5つ中4.5つ
5つのうち4.5つ
3グローバルレーティング
評価はどのように計算されますか?
全体的な星の評価と星ごとの割合の内訳を計算するために、単純な平均は使用されません。その代わり、レビューの日時がどれだけ新しいかや、レビューアーがAmazonで商品を購入したかどうかなどが考慮されます。また、レビューを分析して信頼性が検証されます。
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
レビューのフィルタリング中に問題が発生しました。後でもう一度試してください。
2013年3月9日に日本でレビュー済み
子育ても終わって、かねてから関心のあった原子力のことを知りたいなと思っていた
矢先のこと。主人の机の上のこの本が目につきました。何気なく頁をめくって見て、
書かれている用語は普段テレビや新聞で耳なれたことばかりなのに、その意味が
よくわからない (笑)
好奇心から読み始めましたが途中からハマッてしまいました。著者の「情報収集力」と
「表現力」に惹かれたせいでしょうか? 2週間かけて読み終えて驚いたことに
原子力のアウトラインが頭に入ってしまいました。原発事故や放射能や放射線被曝の問題
だけでなく「パイ中間子」や「ヒッグス粒子」のことまでもです。
原子力が、これほどまでに政治や軍事に影響されていたとは思いもよらなかったです。
今まで知らなかったことが悔やまれました。北朝鮮の核実験の意味も、周辺国への
脅しの意味も、よくわかりました。
折しも昨日の新聞報道で「ヒッグス粒子」の発見には、もう少し時間がかかると
いうことでした。研究者たちも大変なんだなと思います。それが理解できるようになった
だけでも自分にとって大きな進歩でした。
矢先のこと。主人の机の上のこの本が目につきました。何気なく頁をめくって見て、
書かれている用語は普段テレビや新聞で耳なれたことばかりなのに、その意味が
よくわからない (笑)
好奇心から読み始めましたが途中からハマッてしまいました。著者の「情報収集力」と
「表現力」に惹かれたせいでしょうか? 2週間かけて読み終えて驚いたことに
原子力のアウトラインが頭に入ってしまいました。原発事故や放射能や放射線被曝の問題
だけでなく「パイ中間子」や「ヒッグス粒子」のことまでもです。
原子力が、これほどまでに政治や軍事に影響されていたとは思いもよらなかったです。
今まで知らなかったことが悔やまれました。北朝鮮の核実験の意味も、周辺国への
脅しの意味も、よくわかりました。
折しも昨日の新聞報道で「ヒッグス粒子」の発見には、もう少し時間がかかると
いうことでした。研究者たちも大変なんだなと思います。それが理解できるようになった
だけでも自分にとって大きな進歩でした。
2013年3月9日に日本でレビュー済み
核分裂の発見から今年で75年になるという。 原爆投下で終わった「第二次世界大戦」がどんなに過酷なものだったかを、戦争を知らない45歳の自分にこの本は、はっきり教えてくれた。 ナチス・ドイツのユダヤ人へのホロコーストがどれほど悽惨なものだったかも。 その残虐行為がなかったら原子爆弾が開発されることはなく、原子力発電も存在しなかっただろうにと・・。
3・11以後、原発について膨大な情報があふれたが、その多くは原発の危険性や放射能汚染や内部被曝の恐ろしさを強調したものばかりだ。 原子力を物理、歴史、政治、軍事、医学などの広い視点から解説したこの本は、ユニークで本当に目からウロコだった。 原発過酷事故の真相についても。
一見むずかしそうだが、読み進むとそうでもない。 ストンと腑に落ちた。 放射線被曝では医師としての細かい目線が理解の助けになっている。 読んで見て、第2部、第3部を先に読んでから、第1部に戻った方がわかりやすかったかも知れないと感じた。 とにかく原子力が何かよくわかった。 ただ、残念なことは「放射性廃棄物」についての記述がほとんど見られないことである。 次に機会があったら、ぜひ解説して欲しい所だ。
3・11以後、原発について膨大な情報があふれたが、その多くは原発の危険性や放射能汚染や内部被曝の恐ろしさを強調したものばかりだ。 原子力を物理、歴史、政治、軍事、医学などの広い視点から解説したこの本は、ユニークで本当に目からウロコだった。 原発過酷事故の真相についても。
一見むずかしそうだが、読み進むとそうでもない。 ストンと腑に落ちた。 放射線被曝では医師としての細かい目線が理解の助けになっている。 読んで見て、第2部、第3部を先に読んでから、第1部に戻った方がわかりやすかったかも知れないと感じた。 とにかく原子力が何かよくわかった。 ただ、残念なことは「放射性廃棄物」についての記述がほとんど見られないことである。 次に機会があったら、ぜひ解説して欲しい所だ。