著者は、茨城大学教授で都市工学を専門としている。茨城と言えば、原子力に関する知識が乏しい私でも「東海村」の名前が挙がるが、本書はその東海村が何故「原子力村」と呼ばれるようになったか、またどうして原子力発電所と住民が隣り合わせで共存しているのかを解説している。
結論を簡単に言えば、政府の原発の設置決定から茨城県が原子力施設の整備基本計画を出すまでに年月が掛かり過ぎたため、その間に原発周辺に住宅供給が進行してしまった、ということになるのだが、1956年の決定から現在に至る経緯は、第二章と第三章に詳しく書かれているので読んで頂きたい。
著者は、原発については明確に「廃炉」を主張している。ただ、いわゆる政治家や評論家が口先だけの廃炉をお題目ようにただ唱えるのではなく、「廃炉ビジネス」で先行するドイツの事例を紹介したり、原子力のエネルギー利用から医療・医学などでの放射線利用への転換などを提案している。
ただ、国内の大半の原発が稼働中止している現状では、原発の「負の遺産」をどう考え、取り扱うかが喫緊の課題だろう。
原子力委員会の報告によれば、負の遺産の第一位は「農業の衰退」で、第二位は「廃炉により発生する余剰労働力」、第三位が「交付金で建設された公共施設の維持管理」だそうだが、著者の指摘する負の遺産は、「原発と住宅地の危険な混在」が第一位で、第二位が「商放射性廃棄物の処理・貯蔵」となる。
この違いは、負のコストを「経済性」の視点から見るか、「危険度」から見るかの違いであって、どちらが正しいというものではないとは思うが、突き詰めれば前者は「おカネ」で解決できるが、後者は「法的、物理的」に解決は難しいだろう。原発の周囲に大規模に広がる住宅地を全住民の同意を得て、希望する安全な転居先に移転させるのは無理を通り越している。
廃棄物の処理、貯蔵もリスクをゼロにする技術が確立されていないのだから、そもそも根本的な解決は不可能だ。
原発は、新設は言うに及ばず既存の施設を稼働させるのも、廃炉するのも問題が山積している。
世論はどちらかと言えば再稼働に反対、廃炉も止むを得ずとの考えに傾いているようにも見えるが、政府は原発を再稼働し全エネルギーの20%程度を確保する意向という。日立が英国で原発を手掛けようという現状で、国内の原発を危険だから止めるという選択肢は政府にはないだろう。
ただし、これまで政府や原発関係者は言ってきた「原発は安全性に問題はない」という言葉が、福島の事故を受けて今後通用しないことは明らかだ。その上で原発を稼働し続けるなら「完全に安全とは言えないが、可能な限りの対策を施し、万が一の事故にどう対応するのか明示する」ことで国民に納得してもらうしかないと思う。
浅学ながら個人的な意見を言えば、どうやっても危険をゼロにできない現在の原発にさらなる費用をかけるくらいなら、高レベル放射性廃棄物を出さないとされる「核融合炉」の実用化に向けて研究開発費をつぎ込んだ方が、長い目で見て有望ではないかと思うのだが。

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原発都市 歪められた都市開発の未来 (幻冬舎ルネッサンス新書 い 9-1) 新書 – 2018/10/4
乾 康代
(著)
原発都市開発に隠された衝撃の真相を解明し、未来を展望する
歪んだ都市開発こそが、未曽有の原発事故被害を生んだ日本の原子力開発はじまりの地・東海村。
東海村の都市開発には、住民も知らない驚くべき真相があった。
都市計画の研究を続ける著者が、東海村開発の歴史を紐解き、原発都市の歪められた開発こそが、
10万人を超える人々に避難を余儀なくさせた福島第一原発事故につながったことを解明する。
また、廃炉時代を迎える原発都市の未来を思考し、先を歩むドイツの廃炉現場に調査へ向かう。
3.11後に始まった自治体主体の廃炉への動きや、
ドイツ、イギリスの取り組みを紹介しながら原発依存からの脱却と地域の自立を展望する。
いまなお再稼働を推し進め、原発輸出をすすめる日本に問う。著者渾身の一冊。
歪んだ都市開発こそが、未曽有の原発事故被害を生んだ日本の原子力開発はじまりの地・東海村。
東海村の都市開発には、住民も知らない驚くべき真相があった。
都市計画の研究を続ける著者が、東海村開発の歴史を紐解き、原発都市の歪められた開発こそが、
10万人を超える人々に避難を余儀なくさせた福島第一原発事故につながったことを解明する。
また、廃炉時代を迎える原発都市の未来を思考し、先を歩むドイツの廃炉現場に調査へ向かう。
3.11後に始まった自治体主体の廃炉への動きや、
ドイツ、イギリスの取り組みを紹介しながら原発依存からの脱却と地域の自立を展望する。
いまなお再稼働を推し進め、原発輸出をすすめる日本に問う。著者渾身の一冊。
- 本の長さ177ページ
- 言語日本語
- 出版社幻冬舎
- 発売日2018/10/4
- 寸法11 x 1 x 17.3 cm
- ISBN-104344918908
- ISBN-13978-4344918900
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商品の説明
著者について
■ 乾 康代 茨城大学教育学部教授。
専門は都市計画、住環境計画。茨城県住生活基本計画改訂委員会の委員などを歴任している。
大阪大学文学部哲学科卒業。ドイツ系企業勤務の後、大阪工業大工学部建築学科卒業、
大阪市立大学大学院にて博士(学術)取得。著者に『ストック時代の住まいとまちづくり』(共著、彰国社)、
論文に「被災者の住宅再建の進捗状況と再建支援課題―東日本大震災3年後の茨城県を対象に―」
(『日本建築学会計画系論文集』80巻714号、2015年)など。
専門は都市計画、住環境計画。茨城県住生活基本計画改訂委員会の委員などを歴任している。
大阪大学文学部哲学科卒業。ドイツ系企業勤務の後、大阪工業大工学部建築学科卒業、
大阪市立大学大学院にて博士(学術)取得。著者に『ストック時代の住まいとまちづくり』(共著、彰国社)、
論文に「被災者の住宅再建の進捗状況と再建支援課題―東日本大震災3年後の茨城県を対象に―」
(『日本建築学会計画系論文集』80巻714号、2015年)など。
登録情報
- 出版社 : 幻冬舎 (2018/10/4)
- 発売日 : 2018/10/4
- 言語 : 日本語
- 新書 : 177ページ
- ISBN-10 : 4344918908
- ISBN-13 : 978-4344918900
- 寸法 : 11 x 1 x 17.3 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 236,726位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
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