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本の終わり?
(作家:九島伸一)

 

 

本の終わり、書店の終わり、図書館の終わり。

そんなことが言われるようになって久しい。

どこにいても、みんな携帯の画面をのぞいている。大学生の4割以上が本をまったく読まないなどという統計もあって、本には未来がないと思っている人もいる。

 

本当に本は『終わり』なのか?

 

でも本当にそうだろうか。ポール・サイモンが「劇場は本当に死んだの?」と歌ったのは、もう50年も前のこと。テレビの普及のせいで劇場に足を運ぶ人が少なくなり、もう劇場は終わりだと言われていた。でも予想は外れ、50年後のブロードウェイは切符も買えないほど賑わっている。

テレビの終わり、新聞の終わり、週刊誌の終わりというようなことも言われているけれど、続くとか、終わるとか、そんな単純なことは起きていない。情報産業は想像もしなかったような方向に向かい、変化した後の状態が「新しいノーマル」になっている。

インターネットやスマートフォンが普及してきたのも事実なら、情報をめぐる環境が変わったのも事実。でもその変化は、一括りにして話せるようなものではない。一人一人の興味はそれぞれ違う方向に広がっていて、みんなで共有できることは驚くほど少ない。

 

日本人と情報の問題

 

情報についての変化は、国によって大きく違う。グローバル化が進んだといっても、情報に限って言えば、国境は厳然と存在している。情報が大きく制限されている国もあれば、情報が自由に行き来する国もある。情報との付き合い方も、国によって違う。

国連で30年間働いたあと、戻ってきた日本で、私は日本人の情報との付き合い方に、そしてそのナイーブさに、改めて驚かされた。情報に影響されやすい、言葉を換えれば騙されやすいのだ。オレオレ詐欺とか健康食品のこととか、なぜこんなに簡単に騙されるのだろう、なんで疑わないのだろう、そう思った。

私が日本から離れて暮らしているあいだに、みんなのなかから「逞しさ」や「したたかさ」が消えてしまった、そしてなにより「情報に関心がない」「情報に対して無防備だ」ということが、とても気になった。書店に行って情報の本を探してみても、情報技術の本ばかり。情報の洪水の中で、だれも情報のことを真剣に考えていないように見えた。

 

情報と向き合うために、出版という方法を選ぶ

 

私自身も国連でずっと情報を仕事をしてきたのに、情報のことを何も知らない。だから大きなことは言えないと思った。それでいろいろ考え、考えるには書くのが一番なのでいろいろ書き、そこから突然飛躍して、出版したいという思いに駆られた。読んだ人に、少しでも情報のことを考えてほしい、情報を選び取る能力を身につけてほしいと、そういう願いを込めて本を出版しようと思ったのだ。

自費出版をすると言っただけで、周りの人たちには「なんで本なの?」「電子出版じゃないの?」「インターネットじゃだめなの?」というようなことを言われた。実は私は自分のサイトを持っていて、毎日のように更新している。みんなそのことを知っているから、なにを今さらと思ったようだ。

ところが出版をしたら、「なんで?」は「よかったね」に変わった。本は書店に置かれ、思わぬ人が読んでくれて、感想が送られてきたりもした。本のおかげで、多くの人たちとはじめてコミュニケートした。そんな気分になった。

 

本は人に考えさせる情報メディア

 

一冊の本の情報は、ひとりにしか伝わらない。それなのになぜか、読んだ人になにかが深く届いたように思える。伝わった瞬間に忘れ去られてしまうインターネットの情報とは違う。本に書いたことだとまとめて読んでもらえるけれど、インターネットの情報はパッと見られて、リンクをクリックされて、そして忘れられてしまう。

知るにはインターネット、考えるには本。インターネットがすごく速い感じなのに対し、本にはすごくゆっくりした感じがある。インターネットは確かにいろいろな面で優れているけれど、やっぱり本はいい。自費出版はそんなことに気付かせてくれた。

 

■著者紹介
『情報』(九島伸一・著)
情報ほど人をコントロールしやすいものはない。だから、フランス語では「大衆操作」とよび、英語では「メディア操作」とよぶ。人を翻弄する情報の洪水の中で、一人でも多くの人が情報を選び取る能力を身につけ、騙されたり利用されないで暮らすことはできるのか。
国連で30年にわたり活躍したデータ・情報・知識のエキスパートが、情報の本質に迫る珠玉のエッセイ。

 
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